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2015年11月26日

映画「誓いの休暇」

 一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第6回目の講話内容です。

テーマ:映画「誓いの休暇(原題: «Баллада о солдате» 「兵士のバラード」)」
講 師:鳥飼やよい(本校准教授)


 今日は1959年作のソビエト映画「誓いの休暇」(原題: «Баллада о солдате»「兵士のバラード」)を皆さんと一緒に見ましょう。

 1941年に始まった独ソ戦のさなか、19歳の通信兵アリョーシャは、偶然にも2台の戦車を破壊するという手柄を立て、その報奨として故郷の家の屋根修理のための6日間の休暇を与えられ、帰郷の途に就きます。
 戦時にソ連の兵士が休暇をもらい家族に会いに帰郷するなど許されることではありませんでした。例え許されたにせよ、刻々と移り変わる戦況とだだっ広い国土のこと、それは非常に困難なことだったにちがいありません。この映画では戦争という現実の中ではありそうもないこと、つまり「兵士の休暇」というファンタジーが物語られます。

 アリョーシャは道中様々な人との出会いを経験します。アリョーシャに妻への伝言を託す兵士、片足を失い除隊し帰郷する兵士、軍用列車の歩哨兵やその上官、そして夫や息子の帰りを待つそれぞれの妻や父親や母親たち。そしてアリョーシャと束の間の淡い恋心を交わす娘シューラ。
 一方、これらの人々が置かれているのは戦争のリアリティです。軍用列車に群がる人々、空爆を受けて破壊される列車と橋、そこで息絶える人々、廃墟になった町でも寄り添いながら生きる人々、男手が消え女性たちが重労働に就くコルホーズ。その中で生きる人々との出会いと別れを繰り返し、まるで終わりがないかのように続いていくこのアリョーシャの故郷への旅も、いずれ終着点に到達します。

 この映画が封切られた1960年当時、多くの国民が犠牲となり終わった長い戦争のその後の空気が色濃く残る頃、ソ連の聴衆はこの映画を一体どんな思いで見ただろうか、と考えてしまいます。ひょっとしたら、多くの人々は戦地から決して戻ることのなかった愛する者を思い、彼らにもせめてアリョーシャがこの奇跡的な6日間に経験した、生命が光輝くような瞬間が一つでもあったのだろうか、などと考えたのかもしれません。

 あらたな国際的紛争の勃発が身近に迫るかに感じられる21世紀の今日にも、通信兵アリョーシャのこの小さな物語は、時代と国境を越えて、見る人に何かを語りかけるのではないでしょうか。
 私にとっても、何度見ても涙なしでは見れない、そして見るたびにロシアをもう一度好きになる、そんな大好きな映画です。



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