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2009年10月29日

元町で、フランスとロシアが出会う夜

091029.jpg ロシア極東国立総合大学函館校がある、ここ元町には、様々な国の宗教がひしめいている。東本願寺函館別院(日本)、函館ハリストス正教会(ロシア)、函館元町カトリック教会(フランス)、函館聖ヨハネ教会(イギリス)、日本キリスト教団函館教会(アメリカ)……。函館・元町出身の文芸評論家、亀井勝一郎(1907-1966)は、この状況を「世界中の宗教が私の家を中心に集まっていたようなもの」と表現している。この狭い地域に、このようにたくさんの宗教が集まっているというのは、世界的にも稀なことなのだそうだ。
 おもしろい話を聞いたことがある。これらの寺院は、ほぼ隣り合っていながら、祈る方向がまったく異なるのだ。東本願寺は南側にあるご本尊に向かって祈る。ハリストス正教会は東にあるイコノスタスに向かう。カトリックは西に向かい、ヨハネは北を向き祈る、といった具合だ。

 函館開港150年に沸いた今年、フランスと縁の深い函館元町カトリック教会もまた、150年を祝った。ロシアゆかりの函館ハリストス正教会も開港前年の1858年、ロシア領事館付属の聖堂として、その歴史をスタートさせている。
 夜になると本校からは、ライトアップされた、この美しい二つの教会の姿を眺めることができる。本校が現在使用している建物は、元々は函館白百合学園高校が使用していたものであり、八幡坂を挟んだ向かい側には、その母体となったシャルトル聖パウロ修道会が現在も活動を続けている。フランスとロシアが歴史的に深い関わりがあることは知られているが、ここ元町で今もまた、二つの国が向かい合っているのだ。

 このたび、本校講堂を会場に、パリ国立高等音楽院を卒業後、函館を拠点に活躍する気鋭のピアニスト、髙実希子さんのコンサート「ロマンチック・ナイト~フランス、ロシアからショパンへ~」を開催することとなった。第1部はラフマニノフ、プロコフィエフなどロシアの作曲家の作品を、第2部ではショパンの作品を披露していただく予定になっている。講堂のグランドピアノは、2年前に市民の方から寄贈されたもので、このピアノがついに、ピアニストの手によって力強く奏でられる時を迎える。

 今回、このコンサートのポスターは、実希子さんの言葉にヒントを得て、フランスとロシアの国旗をモチーフに作成した。出来上がったポスターを見て彼女は、ショパンの母国・ポーランドの白赤、そして日の丸の色もこの中には入っていると言った。
 祈りの方向は異なるかも知れないが、世界と人々の平和を願う気持ち、そして芸術を愛する心は、同じくひとつなのだ。フランスとロシアが出会う函館・元町の空気、そして可憐さと力強さを合わせ持つ実希子さんの素晴らしい演奏に、多くのみなさまに触れていただきたいと強く思う。

ロシア極東国立総合大学函館校 事務局 大 渡 涼 子

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2009年10月09日

函館にあるハリストス正教会

 一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第4回目の担当は、イリイナ・タチヤーナ准教授でしたが、イリイナ先生の発案で、函館ハリストス正教会の見学と、神父さんのお話を伺うこととなりました。大学に集合し、雨の中、歩いて3分ほどのハリストス正教会までみなさんで出かけました。
 はじめに、聖堂の中で神父さんから教会の方位やイコンについて説明を受けました。その後、敷地内にある信徒会館に移動し、明治の大火で焼失してしまった初代の聖堂の写真や、ニコライ・カサートキンの写真などを見ながら、さらにお話を伺いました。以下は、そのお話の内容をまとめたものです。
 神父さんとお別れする時には、皆さんで練習したロシア語で挨拶しました。


 テーマ:「函館にあるハリストス正教会」
 講 師:函館ハリストス正教会司祭 ドミートリエフ・ニコライ

 正教会の聖堂は、入口が西側にあります。西には悪魔がいると考えられ、洗礼式の時には“西に向かいて悪魔を切り、東のハリストスと契約を結ぶ”のです。東は日が昇るところ、ですから東にはイコノスタス(聖障:イコンで覆われた壁)が配置されています。カトリック教会は逆に、西に向かって祈ります。

 ここは正確には日本正教会ですが、ロシア正教と呼ばれたり、ギリシャ正教と呼ばれることもあります。どちらも間違いではありません。ギリシャが祖母、ロシアが母、日本が子、というような関係で、日本正教会は19世紀に東方正教会の一つとして創設されました。

 正教会の十字の切り方は、上・下・右・左、そして頭を下げます。指を組んだり、手を合わせたりはしません。それはカトリックです。カトリックでは十字の切り方も左右が反対です。理由はわかりません。
 十字を切るときには、親指・人差し指・中指の指先を合わせます。この三つは父と子と聖神を表します。
 日本人は教会に行った時、仏教のように手を合わせます。これも大丈夫ですが、教会に行った時には十字を切ると、“皆さんの心を理解したい、皆さんに反対ではありません”という意思表示になるので、そのほうがよいでしょう。
 
 聖堂の中では、男性は無帽、女性はスカーフなどを被ります。神父の帽子は例外です。そしてローソクを灯します。ローソクは、私のお願いを聞いてください、というお祈りのシンボルです。

 今日は伝道ではありませんが、ロシア文学のドストエフスキーやチェーホフを理解するためには、正教会のことを知らなければなりません。翻訳では60%しか理解できない、あとは文化や習慣を知らなければ、理解できません。

 1861年に来日した、日本の亜使徒聖大主教ニコライ、神田のニコライ堂で有名なニコライ・カサートキンは、日本に正教を広めるためには、まず日本のことを知らなければならないと、1日に3人の日本人の先生に付いて、毎日毎日5年間勉強しました。ニコライはもっともっと勉強したい、と思いましたが、先生は疲れてしまい、3人が交代で教えたのです。
 日露戦争が起こった時も、ニコライは日本を離れませんでした。敵同士となっても、お互いに自分の国のために祈ることを説きました。日本には7万2千人のロシア人捕虜がいましたが、ニコライの指導のもと、正教会の日本人神父が収容所に派遣され、ロシア語でお祈りしたり通訳したりして、捕虜たちのために尽くしました。その活動に対し、 “ロシアは戦いでは負けたが、日本はすごい”、ということになり、ロシア皇帝からサイン入りの聖書が贈られました。ニコライは戦後、功績をたたえられてロシアの皇帝から勲章を二つもらいました。聖職者に勲章が与えられるのは、非常に稀なことです。
 また、正しい理解をするためには、勉強が必要だということで、ニコライ堂にまず神学校、次にロシア語学校、さらに女子神学校を作り、努力しました。

 日本にとってロシアは一番近い国です。この素晴らしい世界で、明るい関係として歩むためには、宗教、学問、政治、そして正直な心が大切です。

<今日のひとことロシア語> 
До свидания (ダ スヴィダーニヤ=さようなら)

* 函館ハリストス正教会でバザーが開催されます。ボルシチ・ピロシキをはじめとする食べ物や手作り品の頒布のほか、市民参加による「フォトギャラリー」が開催されます。詳細は教会へお問い合わせください。

 日時:10月12日(月・祝) 10:00~14:00
 場所:函館ハリストス正教会
     函館市元町3-13 TEL0138-23-7387 

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2009年10月07日

ミリオン・ズビョースト 第61号

 函館校の学報であり、函館日ロ親善協会の会報であるミリオン・ズビョースト/百万の星 第61号を函館校のページに掲載しました。

 今回の巻頭言は、グラチェンコフ・アンドレイ教授による「未来からの銃声」です。本校でロシア語はもちろん、ロシア史・ロシア経済・ロシア国家政治体制・民族学などの講義を担当するグラチェンコフ先生の哲学的な文章には、昨今の世の中のあり方について、深く考えさせられます。

 また、学生からの投稿では、ロシア地域学科2年の芹澤寛人さんが、根室市で行われた北方領土島民の受入事業でのボランティア通訳の話と、引き続き参加した色丹島へのビザなし訪問について寄せてくれました。函館校の学生だからこそできる貴重な体験について、若者らしい視点で新鮮に語っています。是非ご一読ください。

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