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2009年11月24日

アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺事件

 一般向け文化講座「はこだてベリョースカクラブ」の今年度第5回目の講話内容です。

 テーマ:「アンナ・ポリトコフスカヤ暗殺事件」
 講 師:イリイン・ロマン(本校講師)

 アンナ・ポリトコフスカヤの著書「プーチニズム」は、イギリスにおいて英語で出版されました。外国人向けに大げさに書かれたもので、ロシアでは現在も出版されていません。彼女の死後1年ほど経ってから、ロシアの新聞「ノーバヤ・ガゼータ」で連載され、今はインターネットでダウンロードして読むことができますが、本の形にはなっていません。

 アンナは外交官の娘として、ニューヨークで生まれました。モスクワ大学で最もステータスの高いジャーナリズム学を勉強し、イズベスチヤ紙やアエロ・フロート航空の雑誌の編集者などをしていました。アエロ・フロートにいたことから、飛行機に自由に乗ることができるという特権を利用し、国中を旅していました。外交官の娘はアメリカ国籍を取得できませんが、どういう訳か彼女は91年にそれを取得し、二重国籍を手に入れました。

 アンナは、ソ連崩壊は間違った選択だと思っていました。
 94年に第一次チェチェン戦争が始まった頃、アンナはオプシャヤ・ガゼータ紙に移り、99年に第二次チェチェン戦争が始まると、彼女は政治的発言を強めました。それから暗殺されるまで、ノーバヤ・ガゼータ紙で露骨な政府批判を続けました。

 彼女はたくさんの敵を作りました。チェチェン人の話を聞いて、事実かどうかわからないことも、そのまま新聞に載せました。例えば、FSB(ロシア連邦保安庁=旧KGB)に拘束され、飲まず食わずにされたなど、誰も証明できないことを書きました。

 2002年、モスクワ劇場占拠事件が起こります。2003年にはチェチェン人テルキバイエフのインタビューをノーバヤ・ガゼータ紙に掲載しました。テルキバイエフはテロリストの中にロシア政府当局の人間がいたが、当局は何もしなかった、と述べました。
 2004年には北オセチア学校占拠事件が起こります。1000人以上が人質となりました。アンナは取材に向かう飛行機の中で意識不明となり、毒を盛られたと主張しましたが、これも誰も証明できません。

 2004年、アンナの一人目の敵、チェチェン大統領アフマド・カディロフが死亡します。ロシア側についた彼は、独立運動の過激派に殺されたのです。次にアンナは現在の大統領であるラムザン・カディロフ(アフマドの次男)の強烈な批判者となり、汚職や強奪をあばいたので、ラムザンが二人目の敵になりました。

 アンナは2006年10月7日、モスクワの自宅アパートのエレベーターの中で、買い物袋を持ったまま、4発の弾を受け、射殺されていました。10月7日はプーチンの誕生日。ですから私は、プーチンが首謀者ではないと思います。自分の誕生日にそのようなことを起こす人はいないでしょう。そして10月5日はラムザンの30歳の誕生日です。ロシアでは30歳になるまで大統領になることができません。父の死後、大統領に推されながらも年齢が足りずになれなかったラムザンの、30歳の誕生日直後に、こんな事件を起こすことも正直信じがたいです。
 もう一人、イギリスに亡命している新興財閥のボリス・ベレゾフスキーも敵とされています。プーチンは、「アンナの書く記事よりも彼女の殺害のほうが大きな影響を与えた。記事は最低限の影響しか与えない」と発言し、批判されました。

 エレベーターの監視カメラで4人の共犯がいることがわかりました。1年で特務機関を含む14人の容疑者を拘束し、その後もチェチェン人2人と警察官など何人かが拘束されましたが、すべて証拠不十分で無罪となり、未だ捜査中です。

 ロシアでは、一般の人はアンナを売国奴だと思っています。アメリカ国籍を取得したことと、海外の基金からお金をもらうために悪いことを書いて働いていたからです。
 私は、これほどプーチンを嫌いな人は見たことがありません。支持率は今も70~80%です。ただし今は、輸入中古車の関税を引き上げたので、極東では人気がありません。
 アンナの死の直後、イギリスで殺害されたロシアの反体制活動家アレクサンドル・リトビネンコは、「アンナを殺したのはプーチン」と発言しましたが、暗殺自体が政権にとって損害であり、逆効果です。

 一般に、人々のロシアに対する関心が低いと思います。情報自体が入ってこないのに、悪いことが起きたらすぐに広まる。ロシアのことを嫌いになりたかったら、この「プーチニズム」を読んでください(笑)。

<今日のひとことロシア語>
Это интересно!(エータ・インチェレースナ=これはおもしろい)

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