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2007年11月08日

バイカル民話集5(最終回) オリホン島の王

オリホン島の王
Хозьяин Ольхона

とある島に、それはそれは恐ろしい洞窟がありました。島はオリホン島と呼ばれ、洞窟はシャーマン洞窟と呼ばれていました。その訳はモンゴル人の王ゲゲン・ブルハンと地下帝国の支配者でありブルハンの弟であるエルレン・ハナが住んでいたからでした。兄弟は残虐さを武器に、日頃から島の人々に恐怖を与えていました。この兄弟の恐ろしさといったら、シャーマンさえも怯えるほどでした。中でも、兄のブルハンは恐怖の王でした。この冷酷かつ残虐な男が地上に出る時、それは災いが起こる時である、と島の人々はわかっていました。罪のない多くの人々が血を流し、人々は苦しんでいました。
 一方、この島のイジメイ山の奥には街での生活を捨てた一人の賢者ハン・グタ・ババイが暮らしていました。彼はゲゲン・ブルハンの権力を認めず、見て見ぬ振りをし、山を降りてくることはありませんでした。人々は山の頂上で夜な夜な火をつけ、夕食に羊の肉を食べる彼の姿を目にしていましたが、山への道はなく、そこは人々にとって近寄ることのできない場所でした。ブルハンはババイを自分の支配下に置こうと試みましたが、結局、諦めることにしました。何度自分の兵士を山へ送りこんでも、山は誰一人として通しませんでした。勇気を出して山を登ろうとしたあらゆる兵士の頭上には、轟音と共に巨大な岩が落ちてきました。こうして次第にハン・グタ・ババイには誰も関わらなくなりました。

 ある日、ゲゲン・ブルハンが牧場の若い男の目つきが無礼であるとの理由からこの男を処刑するという事件が起こりました。男の妻は悲しみの涙を流し続けましたが、やがて、ゲゲン・ブルハンへの激しい憎しみが湧き上がってきました。そして、どうすれば自分の一族をこの残酷な支配者から救えるのかを考えるようになりました。彼女はイジメイ山を登り、ハン・グタ・ババイに島の人々の苦しみを伝えることにしました。彼には島の人々に味方し、ゲゲン・ブルハンを倒してほしいと思ったのです。
 この若くして未亡人となった女性は山へ向かって出発しました。驚いたことに、多くの優秀な兵士さえもが山を登れなかったのに、彼女はいとも簡単に登りきりました。イジメイ山の頂上に着くまで、彼女の頭上に岩は一つも落ちてきませんでした。この勇敢で自由を愛する女性の話を聞き終わると、ハン・グタ・ババイはこう彼女に言いました。
「よろしい、私があなたとあなたの一族を救いましょう。あなたはすぐに町へ戻り、このことを島のみんなに伝えなさい」
 彼女は大変喜びながら山を降り、ハン・グタ・ババイの言った通りにしました。ハン・グタ・ババイはある月の見える夜に雲に乗ってオリホン島の街へやって来ました。彼は地面に耳を近づけると、下からゲゲン・ブルハンによって罪のない人々が苦しめられている悲鳴が聞こえてきました。
「確かに。オリホンの大地が不幸な人々の血によって満たされている。」激怒したハン・グタ・ババイは誓いました。「必ずやゲゲン・ブルハンを倒して見せる。だだし、そのためには君たちの協力が必要だ。私が合図したら、地面を赤色に染めるのだ!」
 そして朝方、彼はシャーマン洞窟に向かいました。怒りに燃える支配者は彼を迎えるため洞窟の外に出てきて、尋ねました。「何のためにここへ来た?」ハン・グタ・ババイは静かに答えました。「お前にはこの島を出て行ってもらいたい」ゲゲン・ブルハンはさらに激怒しました。「それはありえん話だ!私はこの島の王だ!ならばお前を片付けるとしよう」
「お前など怖くはない」ハン・グタ・ババイはあたりを見回しながら言いました。「お前を倒す方法ならあるのだ!」ゲゲン・ブルハンはあたりを見回すと、驚きのあまり叫びました。すぐそばに島の人々が集まっていたのです。「お前は我々と戦でもしようというのか?」
「そんなつもりはない」とハン・グタ・ババイは静かに答えました。「これ以上血を流す必要がどこにあるのだ?私とお前で決着をつけよう。それが一番いい方法だ!」
「いいだろう!」
 2人は長時間闘い続けましたが、どちらも優位に立つことはできず、力は全くの互角でした。結局その日は決着がつかず、次の日に賭けをする事にしました。容器に土を入れ、眠る前にその容器を自分の足元に置く。そして次の日に土の色が赤色に変わっていたら、島を出て行く。もし土の色が変わっていなかったら、島を自分のものにできる、という取り決めをしました。次の日の夜、二人は約束通りシャーマン洞窟の中でそばに座り、土を入れた容器を足元に置き眠りました。

 夜になり、地下世界の支配者であり、ゲゲン・ブルハンの弟であるエルレン・ハナの影が現れました。影はゲゲン・ブルハンの容器の土が赤色に染まっている事に気づきました。エルレン・ハナはすぐにその容器をハン・グタ・ババイの物と取りかえました。しかし血はエルレン・ハナの影よりも濃く、朝日が洞窟に差し込んできた時、ハン・グタ・ババイの容器の土は消え去り、ゲゲン・ブルハンの容器の土は真っ赤に染まってしまいました。そしてその時、二人は目を覚ましました。土はハン・グタ・ババイとの約束を果たしたのです。
自分の容器を見たゲゲン・ブルハンは大きく息をしました。
「さあ、この島はお前のものだ、そして私はこの島を出て行く」
ゲゲン・ブルハンは家来のモンゴル人たちに、速やかに財産をラクダに乗せ、住居を分解してしまうように命令しました。夜になり、ゲゲン・ブルハンは皆にもう眠るようにと命令しました。そしてエルレン・ハナの強い影によって持ち上げられたモンゴル人たちはラクダと財産と共にバイカル湖の奥地へと飛ばされました。朝、彼らが目覚めると、もうすでにそこはバイカル湖の岸でした。しかし島に残されたかわいそうなモンゴル人たちもたくさんいました。彼らこそが、現在この島に住むオリホンブリャートの祖先だと言われています。

訳:ロシア極東国立総合大学函館校

  講 師  工 藤 久 栄

日本にいながらロシアの大学へ!ロシア極東連邦総合大学函館校
ネイティブのロシア人教授陣より生きたロシア語と
ロシアの文化,歴史,経済,政治などを学ぶ、日本で唯一のロシアの大学の分校です。

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