2005年08月01日

●ソ連の大衆芸能 (2)

ソ連時代の30年から、文化鎖国という状態が続き、ソ連の若者にとって海外で音楽も含めてどのようなものが流行っているか知る機会がほとんどなくなった。30年代は海外で仕事をしたというだけでスパイ容疑をかけられ収容所行きとなった時代である。そのため戦後、ソ連の兵士がヨーロッパでその文化の波をもろに受けたことは特筆に価する。彼らがルーマニア、ハルビン、ドイツ、チェコ、ポーランドから、タンゴやフォックストロット(特にタンゴの王といわれ、発禁となっていたピョートル・リェシシェンコПетр Лещенко「1898~1954年、ウクライナ人、ソ連の外、特にルーマニアで活躍した」オデッサでソ連軍に逮捕されユーマニアの収容所で死んだ。この他にヴェルチンスキーВертинскийがいる。彼は1917年モスクワでピエロの扮装で歌い一世を風靡した。1920年パリに亡命したが、結局前非を悔いて1943年ソ連に帰国を許された。このピエロの扮装はウチョーソフУтесовが勤めた革命風刺劇場監督グートマンのアイデアとされる)、フランスのシャンソンのレコードを持ちかえり、密かに、肋骨レコードрёбра, пластинки на ребрах (костях)(当時1枚2ルーブルほどで売っていたレントゲン写真から戦利品であるグリュンジグというドイツ製の機械でレコードにしたもの。質は悪いが安上がりで当時これ以外に当局発禁の歌を聞く機会はなかった。もっとも肋骨レコードの製作者は収容所送りとなった。2年ほど前NHKで放映されたことがある。昼ホワイトハウスの回りを散歩していたら監視カメラにGrundigと書いてあったのには何か因縁を感じた)として西洋のメロディーも含めて普及させていったのである。レコードの他にも、戦利品としてグレンミラーの「太陽の谷のセレナーデ」、「ディンキージャズのジョージ」、「我が夢の乙女」などの映画メロディーがモスクワ中のダンス場で鳴り響いた。当局はこう言う現象を西洋文化の行きすぎと懸念して、1946年8月14日ズヴェズダー誌やレニングラード誌で西洋拝跪主義との闘い、いわゆるジュダーノフ批判が始まる。
 1930年代からブレジネフ時代まで愛国歌謡、軍国歌謡の時代となりコズローフスキーКозловский、ウチョーソフУтесов、シューリジェンコШульженко、ルスラーノヴァРусланова、シコーラСикора、オーツОтс、レーメシェフЛемешев、ベルネースБернес、ズィキナЗыкина、トローシンТрошин、レフ・レシシェンコЛев Лещенко、コブゾンКобзон(現国会議員)やアレクサンドロフ軍楽隊などが有名である。ブレジネフ時代末期からガーリチのバールド бард (詩の弾き語り)の他にネップ時代のヤクザの歌を発展させたシャンソンが流行るようになる。これはフランスのシャンソンと違い、曲名を見ても、ウラジーミル中央監獄、リョーニカ・パンチェレーエフ(20年代初めの有名なレニングラードの強盗)、入墨など暗い感じである。これ以外の歌謡曲はポプサーпопсаと言われている。
 戦後兵士がヨーロッパの戦場から戻り、レコードや自分の目で見た外国などからソ連が言われるほどユートピアではないことに気がついたこととあいまって、その後、モスクワの庶民にとって一大文化ショックといった出来事が起こった。それは1957年7月28日から8月11日までモスクワで行われた第6回全世界若人と学生フェスティバルである。これは1947年にプラハで行われた平和と友好をテーマにした祭典が、引き続いて東欧諸国で行われるようになったものである。世界の若者の間でゼミ討論の他に、美術的な催し物やスポーツの祭典であった。世界131カ国34000人が参加したという。日本でも有名な歌カチューシャКатюшаは戦地の夫あるいは恋人を待つ女性を歌ったものだが、このフェスティバルのシンボルソングとなった。またこのフェスティバルの歌で1位の金メダルを受賞したのは「モスクワ郊外の夕べ」(作曲ソロヴィヨーフ・セドーイ、作詞マトゥソーフスキー)である。これは1955年のロシア連邦共和国夏季スパルタキアード用として作られ酷評されたが、有名なジャズバンドを率いるクヌシェヴィーツキーの器楽編曲で脚光を浴びるようになった。暗いスターリン治世が終わり、フルシチョフになって自由への期待が高まったからかもしれない。これまでほとんど外国人を見知る機会が与えられなかったロシア人(この場合はモスクワっ子)は、公衆サウナの職員までも、もし黒人が来ても、その黒人がドギマギしないよう上手に対応できるよう、また飾り付けにも余念がなかったという。

Posted by SATOH at 2005年08月01日 13:46
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