2007年03月17日

●帯研(第67回)

小話に出てくる隠語は別にして、実際にヤクザが1974年に刑務所で書いた手紙というのがあるので、一部を後学のために紹介しよう。この手紙の全文を見たのは今から10年くらい前で、その頃はチンプンカンプンだったが、この5年ほどの勉強が効を奏してか、何となく分かるようになった気がする。
設問1)内容をかいつまんで述べよ。勘でもよい。俗に運も才能のうちというから運を天にまかせてでもよい。回答には標準ロシア語ではどうなるかを書くが、それでも不明な点があれば、質問されたし。
Привет, братуха!
Извини, что долго не чиркал. Сам волокёшь, дальняк по четвертой ходке на Печору, к комикам, по новой – за руль сорок четыре (моя кровная). Кича локшовая. Все брушат, вантажа нет и хвостом не бьют. Это не на мололетках и не во взросляке на Металлке, и не в Гореловской девятке. Питерских мало. Встретил Леху-Жука и Витька-Стоху. Живем семьёй. Они оттянули по семиряку. На этапе покнацал Чугуна и Пашку-Скобаря. Оба доходные идут с крытой. Херовые времена. Блатные масть не держат. Редко в какой зоне северика и дальняка есть воровское благо, воровские мужики и паханы с кодлой.

Posted by SATOH at 2007年03月17日 16:43
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コメント

どうもありがとうございました。
かなりきつかったです。ворの意味合いもはっきりしませんでした。
さとうさんの標準語訳とメイさんの和訳を読んで勉強します。

Posted by takahashi at 2007年03月25日 19:54

あれこれ辞書をひっくり返しながら読んでみましたが、まだまだ推測することさえ覚束ない実力だと思い知りました。少し長くなりますが、送信します。

①Привет, братуха!
 приветは挨拶ですね。「やあ、よお、チャオ、ウス」などいろいろ訳せそうです。
 братуха=братанで「兄弟、マフィアのチンピラ」とありました。
 訳:「よう、兄弟」

②Извини, что долго не чиркал.
 ここはчиркать=писать письмоでいいわけですね。
 訳:「しばらく連絡しなくて悪かったな」

③Сам волокёшь, дальняк по четвертой ходке на Печору, к комикам, по новой – за руль сорок четыре (моя кровная).
 волокёшьはволочьの活用でволочишьと同じだと考えて辞書を引くと、хорошо разбиратьсяとあったので「よく理解する」という意味だと考えました。主語тыの省略самは強調。дальнякは「遠方の刑務所、収容所」、ходкаは「服役」、поは期間を示し、на Печоруは「ペチョラ河畔で」と収容所のある場所を示すと考えました。к комикамは「おどけたヤツにお似合いの」ぐらいの意味ですか。кは適合を示していると捉えました。по новойは「改めて」という熟語。ここまでは自分なりに解釈していったのですが、その次の表現で思考停止です。рульは「ハンドル、舵」のほかに「支配、指揮」と言った意味になりそうな気もしますが、сорок четыре「44」とは   
何のことかまるでわかりません。моя кровнаяの意味も取れませんでした。
 訳:「おめえもよく分かってるだろうが、4回目の服役を迎えるこの刑務所はペチョラ河畔にあって、おどけたヤツにはお似合いのところだぜ。по новой – за руль сорок четыре (моя кровная).」

④Кича локшовая.
 кичаは「監獄、営倉」、локшоваяはлокш「運の悪いこと」、локшаは「質の悪い衣服」の意味から考えると「悪い、ひどい」の意味のようです。
 訳:「監獄はひでえ場所だ」

⑤Все брушат, вантажа нет и хвостом не бьют.
 この文は④文の監獄を受けたものと取りました。
 брушат はбросатьから意味をとり、вантаж はвантажист「トランプの名人」から意味をとりました。бить хвостомはэаискиватьやвести себя льстивоとあったので「取り入る、へつらう」という意味だろうと考えました。
 訳:「みんな放り出されたヤツらだし、トランプなんかやるヤツはいねえし、へつらうこともしねえ」
 ④文のひどい場所を説明しているかもしれないと考えました。

⑥Это не на мололетках и не во взросляке на Металлке, и не в Гореловской девятке.
 ここは否定されている要素が3つあり、③文で4回目の服役とあったところから、以前服役した場所を示しているのではないかと推測しました。Металлкеは金属のことなのか、ヘビメタロックのことなのか、それとも場所なのかはっきりしていません。девяткаは「ジグリ」のことを示すようですが、ここはそうなのですか。
 訳:「ここは青少年の鑑別所でもメタルロックの成人刑務所でもゴレロフスキーの9年間とも違う」
 
⑦Питерских мало.
 訳:「ペテルブルグの人間はあまりいない」
 
⑧Встретил Леху-Жука и Витька-Стоху.
 訳:「レフ・ジュークとビーチカ・ストハに会った」

⑨Живем семьёй.
 訳:「俺たちゃ、家族のように暮らしている」

⑩Они оттянули по семиряку.
 訳:「ヤツらは服役して7年になる」
оттянуть = отбытьとあったので「服役する」と意味をとりました。
 семирядкаはсемилеткаと音が似ていたのでそちらに取りました。

⑪На этапе покнацал Чугуна и Пашку-Скобаря.
 этапは「囚人の宿舎、宿営地」のことですか。покнацалはвстретилと同じ意味だろうと考えました。
 訳:「宿舎で、チュグンとパシュカ・スコバルと知り合った」

⑫Оба доходные идут с крытой.
 обаはチュグンとパシュカ・スコバルのことだと思いました。доходныйは「珍しい、風変わりな」の意味のほかに「極度にやせていて疲れきった人」という意味もあるようです。идти с крытойがどういう意味なのかわかりません。「被いとともに出かける」という直訳からすると、痩せこけていて出かけるときには何かを必ず羽織っていくという意味かもしれないと思いましたが、次の文とうまくつながらない気がしました。
 訳:「痩せこけたこいつら、出かけるときは決まって何か被っていきやがる」

⑬Херовые времена.
 херовый=хуёвыйとあったので、「嫌悪の情を催させる、嫌な」という意味に取ると、⑫の文は否定的な意味になりそうです。идтиに「事にとりかかる」という意味もあったのでそちらに取れば意味はつながりそうですが、временаと複数形になっているのが引っかかりました。
訳:「毎日がひでえもんだよ」

⑭Блатные масть не держат.
 訳:「悪事をはたらいた人間の序列はここにはねえ」

⑮Редко в какой зоне северика и дальняка есть воровское благо, воровские мужики и паханы с кодлой.
 訳:「северикや収容所のどんな場所にも、盗人に幸福があることなぞめったにねえし、盗人ヤロウどもや取り巻きをつれた親分みてえなヤロウもいねえ」
  северикは「北方の地」なのか、それともдальнякと並列関係にあるので収容所のような意味があるのかアタリがつきませんでした。
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ご苦労さんです。口語辞典と英語の隠語辞典でこれまで訳したのは立派です。標準訳はメイさんのを見てください。気になったのは、ворの意味がよく分かっていないことです。これは泥棒ではなく、вор в законеという犯罪者のエリートクラスです。それとэтапは収容所に送致されるときの過程(普通直通ではなく、いくつかの収容所や刑務所経由なので)を指します。питерは時代を考えるとレニングラードの人ということです。これほどの隠語は一般のロシア人も知らないですから気にすることはありません。なんなら試しに在日のロシア人に聞いてみるとよいでしょう。このぐらいの隠語をやっておけば、ロシア人の若い人やガキ(タトゥーの歌詞など)の使う隠語など楽勝です。

Posted by takahashi at 2007年03月24日 19:07

詳しく教えていただきましてありがとうございました。以下誤訳部分の修正です。
▼из колонии с особым тюремным режимом в другую ИТК
  特別収容所から別の矯正労働収容所へ
▼ペトログラードは誤訳でした。1974年は確かにソビエト時代でレニングラードですね。
  Питерにひきずられました。

実は最近、染谷茂先生の”Один день Ивана Денисовича”(邦訳付)に目を通したらまったく歯が立たなかったこともあったりで、収容所や囚人のことにちょっとだけ関心がありましたので結構楽しみました。

Posted by メイ at 2007年03月22日 21:33

全然短期間で仕上げたものではありません。1日中かかっています。本当にこれは無理だと思いました。手持ちのわずかの俗語辞典には載っていませんでしたので、今回はネットをかなり活用しました。ネットはまちがいもある可能性も大きいのですが今回は役にたちました。(<a href="http://alplekhanov.narod.ru/SLOVAR/15.htm)(http://www.bratok.com/dictionary/dict_18.html)(http://www.pervouralska.net/forum/archive/index.php/t-896.html)(http://tashnotic.narod.ru/simple.html)で、ほぼ回答した部分の単語は網羅しています 最初に悩んだのは数字のсорок четыреでした。これは何の数字なのか検討がつきません。за рульとあるので、まず距離を表わすキロメートルだと思ったのですがよく考えれば、44㎞と端数がついているのはおかしいと考え直し、次に思いつくのはお金しかありません。さらに(моя кровная)とくれば、血のにじむ思いで貯めたお金となりました。同じ血でも血のつながりのほうだったのですね。単位もなく、ただの44でしたので、ルーブルとつけるしか… 改めて考えてみれば刑法144条は一番自然なのですが… 囚人仲間では144条の百を抜かすのですね。こうなるとますます厳しいです。刑法なら、刑法の新条項=по новой статьеとつながってきます。
 к комикамも意味不明でした。ペチョラがコミにあることを連想もできませんでしたし、小文字なので地名とは考えず。комикは「喜劇俳優」だし!!!
 また、Металлостройや Гореловоのколонии № 9がどんなものか知りませんので訳に無理はありますが、原文ではна мололетках や во взрослякеと分けて書かれているのに対し、標準語の文章ではв воспитательно-трудовой колонии (для несовершеннолетних правонарушителей) となっているところをみると、Металлостройの収容所では未成年者を少年と青年に分けているのでしょうか。
 次に、отщалиの原形は何で、どういう意味ですか。また、с крытойは、с особым тюремным режимом となっていますが、適訳はありますか?
  имеющих власть над зонойは「シマを仕切る」としたほうがいいのか、さとうさんの説明で、ворのボス格、とありますので、「侠客をたばねる」としたほうがより正確なのかなとも考えています。
 質問の答をうかがう前ですが、再度標準語訳を見たのちの自分なりの訳です。間違いを指摘していただければ幸いです。

兄弟、しばらくだ。
長い間便りもせずにすまない。実は四回目のオツトメでコミのペチョラ川ぞいの矯正労働収容所にいる。144条の新条項(俺の親類関係)にかかった。ひどい収容所だ。みなくそ真面目だし、情け容赦はないし、仕事を抜けようとするやつもいない。ここはメタロストローイの青少年矯正労働収容所でもないし、まさかゴレーロヴォの第9収容所でもないんだぜ。ペトログラード出は少ない。リョーハ・ジュークとヴィーチャ・ストーフに会った。仲間のちぎりを結んで暮らしている。奴らも7年ずつツトメている。 護送囚人の一団でチュグーンとパーシュカ・スコバーリをみかけた。二人ともがりがりにやせて、刑務所の特別措置で別の収容所に移送されるところだった。情けない時代だ。極道に収容所を仕切る力がない。こんな極地の収容所じゃ、兄貴分の差し入れも、カネを流す親父も、シマを仕切る親分さんもめったにおがめない。
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よく理解されていると思います。収容所については、私の調べた限り、ИК = исправительная колония; ИТК = исправительная турдовая колония;
колония общего режима 一般収容所
колония строгого режима厳格収容所
колония особого режима特別収容所
колония усиленного режима強化収容所(これが一番規則が厳しい)
химия = условно-досрочное освобождение из мест лишения
свободы, обязывающие жить в определенном месте и работать на определенном предприятии, принудительные работы на
производстве (вредное производство)
зона = ИТУ = исправительно-трудовое учреждение
*тюрьмы → зоны → поселения → химии (= стройка народного
хозяйства)となります。отщалиはотощалиの私のタイプミスです。すみません。ペトログラード出というのは誤訳でしょう。1974年ですからレニングラード出とすべきです。この手紙はворの権威が1970年代にはかなり落ちてきたことを示すものです。1960年代のフルシチョフのворに対する取締りが効を奏してきたわけですが、70年代末からブレジネフのцеховики(闇の企業家)のおかげで復権してきます。尚、ソ連刑法第144条とは殺人罪のようです。

Posted by メイ at 2007年03月22日 16:36

おっしゃるとおりабракадабра!!!「運も才能のうちというから運を天にまかせて」のことばにノセられ、恥をしのんで清水の舞台から飛び降ります。もう二度と這い上がることができなくなるかもしれません…

兄貴、しばらく。
長い間便りをせず許してくれ。実は四回目の服役でペチョラ川沿岸の矯正労働収容所にいる。(к комикам)新居じゃ、ボスに44ルーブル渡した(俺のなけなしの金だ)。ひどい収容所だ。みな病気で痛がっているのに大目にみてもらえんし、仕事も休ませてくれん。メタールカの少年収容所や成人収容所でも、ゴレローフスカヤの第9(?девятка)収容所でもこんなにひどくはなかった。ペテルブルグ出は少ない。詐欺師(知り合いのという意?かも)のリョーハとстохаのヴィーチャに会った。仲間のちぎりをして暮らしている。二人ともоттянули по семиряку。 護送囚人の一団でチュグーンと(ドけち?)パーシュカをみかけた。二人ともやせてがりがりで有蓋護送車で行くとこだった。ひどい時代だ。極道に仕切る力がない。こんな、シベリアや極地収容所のようなとこじゃ、(既決の)兄貴分からの差し入れも、カネを流してくれる(既決の)親父さんも、組をひきいる親分さんもめったにおがむことがない。
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短期間で多分口語辞典を使ったのでしょうが、よく出来ていると思います。普通ののロシア人でもメイさんほどには訳せないと思います。知り合いのロシア人がいれば試してみるのも面白いかと思います。人名はпогоняло = кличкаという仇名(通り名)ですから、別にそのままにしておいてよいと思います。前半は「兄貴」(兄弟のほうがよい。どちらが上か分からないので)、「服役」(オツトメのほうがよい)など変えたほうがよいものもありますが、後半は訳がこなれてきています。
標準語訳)Привет брат!
Извини, что так долго не писал. Сам понимаешь: четвертая судимость по моей родной, 144-й статье УК, отбываю на Печоре, в Коми АССР. Колония плохая. Все вкалывают, поблажек никому нет, никто и не пытается сачковать, увиливать от работы. Это тебе не в воспитательно-трудовой колонии (для несовершеннолетних правонарушителей) и тем более, - не в ИТК в поселке Металлострой или колонии № 9 (строгого режима) в поселке Горелово. Питерских мало. Встретил Леху-Жука и Витька-Стоху. Живем воровской семьей. И тот и другой отсидели уже по семь лет. На этапе видел Чугуна и Пашку-Скобаря. Оба чуть живые, отощали, их переводят из колонии с особым тюремным режимом в другую ИТК. Плохие времена настали: блатные в колониях потеряли прежнюю власть. Теперь редко в каких отдаленных зонах встретишь воровские поборы, зэков-бытовиков, отдающих ворам часть своей выработки, не говорю уж об авторитетных ворах в законе, имеющих власть над зоной.
解説)この用語を見ているとやはりやや古いような気がする。多分今なら、братуха ではなくбратваというところであろう。блатной = вор = вор в законе = законник = урка = человекであり、犯罪界のエリートである。Паханというのはこのエリート中のボス格をいう。1970年~80年代のавторитетはворの候補生だったが、昨今はобщак(上納金)を納めるのが嫌だとか、воровские понятия(ворの掟)を守るのが嫌だとかで、ворになりたがらないが、それなりの権威をもっている顔役のことを指す。мужикはворの手下を指す。Леоновの小説Ворを「泥棒」と訳しているのは、明らかな誤訳と言える。Леоновのворは犯罪エリートであり、任侠、顔役あるいはワルなどと訳すべきで、泥棒のようなケチな真似をするはずがないことは本文を読めばよく分かるはずだ。

Posted by メイ at 2007年03月20日 11:01
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