はっさく1号の・・・
あんなことこんなことロシア 第4回

事故現場に直面したら・・?(前編)


 ここモスクワでは、一体一日に何件交通事故が起きているのだろう。
遊園地のゴーカードレースかいなと思ってしまうほど
滅茶苦茶な運転をするドライバー、信号無視、歩道を走る車、飲酒運転。
数え上げたら切りがない。

ここでは多くのドライバーが運転免許を買っているのだという。
あるロシア人の先生の話に因ると、「500ドルで買えるのよ。
それを買ってみんなあんな滅茶苦茶な運転をしてるの。
ここで運転するなんて単純に不可能だわ。私には絶対無理。」

だからもちろんタクシーに乗るときに何よりもまず心配なのは、
事故に巻き込まれないかどうか。自分の運転手さんが人をひかないかどうか。
事故らないかどうか。そして勿論運転手さんが危険な人でないかどうか。
大体運転手さんを見て「あっこの人やばいかもっ・・」と感じたら
すぐに断わるのだけれど、その判断がいまいち難しい時もある。

当然こんな交通状況下のモスクワでは、日本にいるよりもはるかに
頻繁に事故現場を目にすることになる。
そしてそんなある日、ついにわたしは自分の目の前で人が跳ねられる瞬間を
目の当たりにしてしまうのだった。

それはわたしの高校時代からの友人が姉妹でこっちに旅行で来た時のこと。
もちろん彼女たちはロシア語は知らないしロシアは初めてなので、
時間の許す限り私は二人と一緒に行動していた。
二人がサンクトに行ってきた帰りに国内線の空港まで
迎えに行ったのだけれど、
その帰りのタクシーの運転手さんがなんと大変なスピード狂だったのだ。
有り得ないスピードで走り続け、前に車があるとぴったりくっついて
横の車線へどかしてしまう。これがまた怖い。
「ぶつかるって!!」みたいな。本当に直視できなかった。
それはまさに「死のドライブ」。ただただ怖かった。
本気で「今日死ぬかもしれない・・・」と。

ふと後部座席を見ると、二人のうち一人は祈るように両手を固く結び合わせて
目をつむり上を見上げてただただ無言。顔は相当青白い。
初めは「ひえぇぇ――・・死ぬ・・!!」などと呟いていた友人の方も、
もはや無言になりただ息を潜めて爛々と光る眼で窓の外の流れる景色を
見つめている。彼女も顔は青白い。
はるばる日本からやって来た友人とその姉にここまで怖い思いをさせる
なんてと申し訳ない気持ちで(それから勿論自分もめちゃめちゃ怖かったので)
運転手さんに「もう少しゆっくり走って下さい!!」と頼むと
「何怖いの?しょうがないな〜もう」という様にくすっと微笑み
車線を変えてスピードも落としてくれたものの、
しばらくするとまたぐんぐんスピードが上がってくる。
私: 「あの、怖いんですけど!!」
運転手: 「んん〜?大丈夫大丈夫。わかってるよ。」
    (ここでまた二ヤリ。)
私:『何が?!?!?!!!???☆+¥$#&!★〜¥』(心の叫び)
『ああ〜〜やばいやばいよ。本当に死ぬかも。今日死んじゃうのかな。
やだな・・・。えぇ〜ん怖いんだってば〜〜〜(>0<;;)』

その時だった。
前方に何かが見えた。なんだか人影っぽい。
「あれ?あそこに立ってるのって人?」
と思うが早く、その影はぐらっと道路に駆け込みその瞬間ちょうど
私達の前を走っていた車に激突、バ――――ン!!と跳ね飛ばされて
しまったのだ。

「嘘っ・・・!!」
余りに突然の出来事に私たちが唖然としていると、
我らがタクシードライバー、即座に車を止めて助けに走った!!

「おいっ!大丈夫か!!しっかりしろ!今救急車を呼ぶぞ!」
(と多分言っていたと思う。車の中からはよく聞こえなかったけれど。)
そしてすぐに携帯で何件かと連絡を取り、
弾かれた人にしきりに気を配っている。
弾かれたのは二人。初老の男性とそれよりも若いめの女性。
どうやら親子らしかった。女性の方が重症らしい。全く動かない。
苦しそうにうずくまっている。足からは血も出ている。
男性の方は比較的軽症なのか起き上がって
ガードレールにもたれかかりペットボトルの水を飲んでいる。

そうこうするうちに周りの車も止まり出し、
救援に駆けつける人々が増えてきた。
どれくらい待っただろう。多分20分くらい。まず来たのは警察だった。
道路に寝そべり苦しんでいる女性のもとへつかつかと
歩み寄ったかと思うと一言。
「身分証明書。」

「・・・・・・・。」

「えっ何?!怪我人の心配よりも何よりもまず身分証明書?
なんて恐ろしい国なの!!」・・と友人。無理もない。
私だって、そりゃないでしょと思った。
でも女性の方も普通に対応している。

実は警察が来る直前、私達はこの女性の様態がおかしいことに
気付いてすごく心配になっていた。
じっと動かずにうずくまっていた彼女が、かなり激しく早いペースで
大きく呼吸をし始めたのだ。「危ないんじゃ・・・!」と私達。
でもその後。警官の事情聴取も済みあとは救急車を待つばかりという時、
なんと彼女おもむろに煙草を吸い始めたのだった。(もちろん寝たまま)
「はっ何これ!も―勝手にして・・。」と友人。無理もない。
私達はあれだけ心配したっていうのに。

それにしても救急車はいつ来るの?
全然来ない。ひたすら待ちつづける。
私たちは車の中からそれを見守りつづける。
私たちの熱い視線に気付いた我らがタクシードライバーが歩み寄って来て、
「大丈夫?寒くない?暖房つけてあげるよ。もうちょっとだからね。」
と優しく一言。

「いい人だったんだね。」
「ソッコー助けに走ったしね。あの素早さは感動モノだよ。」
「うん。人殺しなんて思ってごめんねおっちゃん。」
―――と口々に誉めだす私達。

だけど状況を聞きまわっている警官と説明しているおじさんを
見ているうちに、私たちの中で別の心配が浮かんできた。
「ねえでもなんかおっちゃん違うことで捕まりそうじゃない?
顔やばいし。無免許運転とかで捕まってうちらも一緒に
連れてかれたりとか・・!!」と友人。
これはちょっとヒドイ(^^;;)。
でも、確かにそう思うのも無理もない程、怪しい人相をしていたのです。
書いてる今も失礼だな〜・・ごめんなさいおっちゃん。と
思うけど・・。(汗)

救急車がやって来た頃には、事故発生後既に40分は経っていた。
2台の救急車。その中から出てきたのは、ミニスカートにハイヒール
そしておかっぱ頭の一見「えっ、お医者さん?」と疑うほどのお姉さん。
でも一応白衣を着ている。別段急ぐ風もなくつかつかと怪我人のもとへ
歩みより、何か事情を訊いている。でも誰も救急車へ運び込もうとは
していないみたい。ゆっくりゆっくりと時間が過ぎる。
その後15分程して、ようやく二人は2台の救急車の中へと運び込まれた。

でも。でも・・・?
何故か救急車が動き出す気配は一向に無い。中で治療してるのかな?
でもどうして?すぐに病院に行った方がいいんじゃ・・と考えながら
そのまま見守り続けるしかない私達。
待って、待って、結局救急車はいつまで経っても発進しなかった。

(これからどうなるの?・・・と心配しつつ次回へ)


平日のモスクワの道路はいつもこんな状態(白タクの助手席から)。にもかかわらず、すべての車が我よ我よと、強引に狭い隙間に割り込み先に進もうとするから、すごい生存競争(?)が繰り広げられることになります。マナーを守っていたら全く先に進めないという事実が悲しい。それにしてもフロントガラス汚すぎ。(gonza)


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