2002.10.26 9:00 gonza

何が始まった? 激しい銃撃音と爆音が建物の中から・・・


武装グループの最後通牒時刻切れ寸前、朝6時前に、建物のなかで銃撃音と爆音が始まりました。

道路にはスペツナッズ(特殊部隊)の兵士が行き交い、装甲車が動き始めました。テレビで中継されている建物からはものすごい砲撃音(爆発音?)と銃撃音が聞こえています。救急車が列をなして劇場の建物に向かいはじめました。女性が兵士に抱えられて道路を走っています。脱出してきた人質かもしれません。通信社リア・ノーバスチは人質2人を救出と報じています。被害者については6:30現在の正式発表では人質2名が死亡。2名が怪我とのことです。

特殊部隊が道路を行き来するようになってきた。銃撃音が聞こえる 建物の影で様子をうかがう特殊部隊 装甲車や消防車が動き出した
劇場の内部からものすごい爆発と銃撃の音がしばらく続く。建物の側に置いてある車からは、モスクワの住人ならおなじみの盗難防止のための電子音が共鳴。 劇場の建物のすぐ近くにある壁の影に身を寄せる特殊部隊の兵士たち 救出される人質。兵士に抱きかかえられて、駆け足で道路を横断する


ロシア政府の人質解放作戦本部セルゲイ・イグナチェンコの発表によると「話し合いの努力にもかかわらず、テロリストたちが人質に対し一斉射撃を始めた。2人の人質が射殺された。人質はグループで建物からの強行突破を計り、テロリストは彼らに射撃を加えた。スペツナッズ(特殊部隊)が救出に向かわざるを得なくなり、建物内部に強行突破。武装勢力は捕らえられた」とのこと。




劇場を完全制圧。人質の多くを救出。テロの首謀者バラエフと共謀者は死亡。


作戦終了を宣言するパーベル・クドリャフツェフ

7:20分現在、作戦本部代表パーベル・クドリャフツェフの発表がありました。首謀者のモヴサール・バラエフは射殺。武装グループのほとんどのメンバーも射殺。残りのメンバーは逮捕。スペツナッズ(特殊部隊)は建物に侵入。人質は建物を脱出。スペツナッズにより建物は完全に制圧。建物に仕掛けれた爆弾装置の多くを無力化。現在人質の救出・輸送に全力をつくしている。人質になっていた人の中には怪我している人もいるので医療活動を行っているとのことです。




対テロ特殊部隊アルファの突撃の瞬間。ガラスを割って、ガスマスクをかぶり中に入る。 救出された人質の人々が次々とバスで運ばれていく 長時間の拘束で疲労が限界に達した人々。あるいは特殊部隊突入時に使われたガスが影響しているのかもしれません。


武装グループの何人かは逃亡したとのこと。作戦本部は、彼らは極めて危険だと、ロシア全土に情報提供と厳重警戒を呼びかけています。

警察が撮影した生々しいショッキング映像が、テレビでさかんに流されています。
様々なものが散乱する事件の主舞台となった演劇ホール。床や椅子には死体がごろごろ転がり、大量の血だまりができています。 座席のところにセットされている大型爆弾 射殺された武装集団の参加者の無惨な遺体。あちこちに転がっている様子がテレビで流されてます(残酷すぎてこれ以上は載せられません)。

武装グループメンバーのほとんど(33人以上)が射殺されました。前記事(下記)で取りあげたメンバーもおそらく全員死亡したものと思われます。若い女性メンバーの無惨な死体がテレビで放映されており、なんとも言葉にできない気持です。あれだけ激しい爆音と銃撃音がしたのですから、人質となっていた人々もたくさん亡くなったのではないでしょうか(9:00現在 gonza 疲れました。寝ます)


2002.10.25 24:30gonza

続報! 初めてテレビカメラが劇場に入った!
 一体立てこもっているのはどういう人間で、中にはどうなっているのか? 
(おそらく)ロシぴろだけの現地からの詳細報告:

いまモスクワではなにが起こっているのか?


NTVテレビが内部に潜入

武装グループはいぜん600〜700人の人質とともに劇場にたてこもっています。

建物のなかに入ったロシアアカデミー小児健康センターの医師レオニード・ロシャーリの話によると、人質の中には14,5歳の子供が20人ほど含まれているとのこと。というのはテロリストたちは12歳以上は「大人」とみなして解放には応じていないからです。その中にはミュージカルに出演していた12人の子供も含まれているとのこと。前回の記事で、写真つきで紹介した「歌い、踊る」子供たちも人質になっている可能性があります。
2人の女の子が癲癇や気管支炎で、1人の男の子が肺炎で、深刻な状態にあるといいます。武装グループは子供たちはここで治療できると主張し、外に出すことを拒否したそうです。しかし「金曜日の接触状況次第では子供が全員解放される可能性もある。そのために全力をつくす」と医師は言っています。

ロシアのテレビNTVのカメラが、ロシャーリ医師に同行して、はじめて武装グループに占拠されている劇場の中に入りました。いったい武装グループとはどういう人間で、中の様子はどうなっているのでしょうか。


医師と一緒に建物の中に入っていくテレビクルー。正面扉のガラスには銃弾の跡が。 医師の持つビニール袋の中には医薬品が入ってます。劇場一階には誰も見当たりません。 2階にのぼるとただちに、武装グループに迎えられます。 台所のようなところで会見。彼らは迷彩服に黒マスク。手には自動小銃を持っています。


これが劇場を占拠している武装グループの面々(一部)。写真の中央、犯人のなかで唯一、黒マスクで顔を隠していないのが、今回の首謀者モヴサール・バラエフ。チェチェンで戦死したといわれる有名な野戦司令官アルビ・バラエフの実の甥にあたります。

モヴサール・バラエフ

バラエフの「追随者」たち
彼らの間で「シスター」と呼ばれる2人の女性がいます。拳銃をもち、機関銃と手榴弾で武装した彼女たちは、爆弾を腰の所に装着しています。おそらく手製と思われる爆弾には導線がついてます(それを常に手に握っている)。マスクの間から大きくてきれいな目が見えます。まだ若い女性かもしれません。



銃を持った女性が絶えず後ろから見張っています。


「彼らには正当に接してください」と繰り返す人質の女性。「武力による強襲は避けて下さい。誰もそんなことは望んでいません」
人質になっている人々(一部)


劇場内に医者を入れるにあたっては、武装グループから異例の要求がありました。イスラム圏の医者じゃないと受け入れられないというのです。そこで選ばれたのが有名な物理療法医のロシャーリ先生。チェチェンで医療活動を行っており、テロリストたちもよく知っているとのことです。

「人質となっている人々の健康状態は良好である。
病人たちの症状はひどくはないが、心理的な混乱状態を起こしている」


「もちろん、(人質の間には)動揺はある。風邪など病気にかかっている人も多い。が、皆がヒステリーになったり、大声で叫んでいるわけではない。2,3人の女性がヒステリー状態にある。しかし、全体としては平静が支配している」


「医療処置が必要であったが、医薬品がなかった。しかし(武装勢力の)許可が出たので、今は劇場ホールおよび上階には、当座に必要な医薬品が運び込まれている。(人質の間には)病人が多い。目を怪我している人や風邪を引いている人がいる。安静剤が必要な人もいるが、全体としては平静が支配している」
中の様子を話すロシャーリ医師のインタビュー

潜入したロシアNTVテレビの記者によると、「劇場には食べ物と水はある。劇場カフェに蓄積されていた少量の食料品が利用されている」とのこと。

ジャーナリストとの話し合いで、武装集団のメンバーは「長期間にわたって綿密に計画を練った。何回も劇場に足を運び、ミュージカル「ノルド・オスト」を見た」と言っています。やっぱり彼らが「ノルド・オスト」を選んだのは偶然ではないのです。

現在600人とも700人とも伝えられる人質の数ですが、今回会見することができた人質の女性たちは、正確な人数が分からないと言います。なぜならテロリストは人質たちをいくつかのグループに分けて監禁しているからです。彼女たちは「現在600人と伝えている人質の数を低く見積もらないで欲しい」とだけ言ってます。

もし今回のテレビのインタビューが放映されれば、何人かの子供を解放すると、首謀者バサエフは言っています。
建物の中でおそらくテレビを見たりラジオを聴いたりしている武装グループメンバーや人質たちはインタビューが放映されるのを待っているらしいですが、テレビのニュースでは映像の断片が写されるだけで、インタビューの詳しい内容は報道されていません。そのことを人質になっている人々は心配しているようです。

ラジオ局に電話をかけてきた人質の女性は「(私たちの声が)デマではないかと思われてるのを心配している。私たちの願いが政府やマスメディアに届いていないのではないか。テレビでは断片映像だけしか流れていないのが残念です」と言っています。

「私たちは大丈夫」という彼女は「大統領自身がイニシャティブによる政府による事件の迅速な解決」と「その際に決して武力による解決方法は取らないこと」を願う手紙を大統領にあてて書いたそうです。

インタビューおよび武装グループによる声明文のマスコミ報道禁止は政府の方針らしいです。ロシア印刷省の大臣によるとロシアの法律に違反するとのこと。しかし、危険にさらされている人質のことを考えるともっと柔軟な対応も必要なのではないでしょうか。


プーチン大統領への呼びかけ

「大統領への呼びかけ」を読み上げるマリーヤ・シュコーリニコヴァ

マリーヤ・シュコーリニコヴァという人質になっているひとりの女性が突然、建物から出てきて、マスコミの前でたどたどしく、以下の「プーチン大統領への呼びかけ」を読み上げました。その様子がテレビで中継されました。
彼女によると拘束されている人質たちがみんなで書いたといいます。

この手紙はあそこにとどまっている人々が書きました。

皆さん、私たちは人質になっているものです。
私たちの中には女性、男性、若者、子供がいます。
お願いです。理性的に対応してください。
チェチェンの軍事行動を中止してください。
あなたたちは上層部で問題を解決しようとしているだけで、
私たちは見ているだけです。
もう戦争はたくさんです。
私たちは平和を欲します。
今日、私たちは生きるか死ぬかの状況に直面しています。
私たちには両親、兄弟姉妹、子供がいます。
あなたの良心に彼らの命がかかっています。
お願いです。
問題を平和に解決してください。
そうしないとたくさんの血が流れることになります。

どのような経緯を得てこの手紙が書かれたか分かりません。
武装グループの圧力で書かされたのか、テロリストたちに心を動かされて書いたのかはっきりしません。

彼女によると、チェチェンからロシアが撤退するというテロリストたちの要求が受け入れない場合、人質に一斉射撃がくわえられる可能性はかなり高いといいます。
「ここで起こっていることはすべて現実です」と彼女は訴えます。

プーチン大統領は・・・ 我々は(テロリストの)挑発行為には乗らない。
いますべての力を集中すべきは、 該当地域の安全を確保するこ、 ギャングの手により人質になってしまった方々への支援。 そして、人質の親族の方々への支援です。


武装グループの中に心理学者が! ストックホルム・シンドローム

ロシア連邦保安局の公共通信センターの副局長によると、人質になっている人々は「立て!伏せろ!」を繰り返したり、「机の下に潜れ!」と命令されたりして、強力な心理的圧迫をかけられているということです。

それだけでなく、武装グループのなかには、「やさしい性格」をもった「心理学者」がいて、人質のそばにいることで「彼らの心の中に入り込んでしまう」といいます。

一日中、人質になっている多くの人々から、携帯を通して「テロリストたちを理解できるし、理解しなければならない」と電話がかかってきているそうです。

前述の「プーチン大統領への手紙」を読み上げたマリーヤ・シュコーリニコヴァは、ラジオ局「エコー・モスクワ」の電話インタビューで次のように語っています。

「たとえテロリストが何人かの人質を殺したとしても、彼らの要求を実行しなければならない。なぜならチェチェンでは戦争が行われていて、ロシア政府は自らの罪を認めなければならないからです。人質はみんな言っていることですが、テロリストはとても礼儀正しくて、人質を傷つけるどころか、怒鳴りつけることもせず、子供に水やチョコレートを与えています」

人質からの電話の内容から判断して、人質の多くが、人質がテロリストに同情してしまうという、いわゆる「ストックホルム・シンドローム」にかかってしまっているのではないかと、連邦保安局は見ています。

犯人に囚われた人質が、いつのまにか犯人の味方についてしまうという行動は、たびたび起こるものだそうです。これは、極限状態で命が助かるために、無意識のうちに犯人を好きになろうとする心理であり、これをストックホルムシンドロームというそうです。1970年代の始めにスウェーデンの首都で起こったテロ事件からこう呼ばれるようになりました。2人のテロリストが、人質をとって、一週間の間銀行に立てこもったのです。その間に人質たちはテロリストに味方するようになり、警察が彼らを救出しようとする活動に抵抗さえしました。あとで、人質の中の2人の女性がそのとき彼女たちを監禁した(元)テロリストたちと結婚してしまったそうです。

ほんとうに今回チェチェン過激派に占拠された劇場の中にいる人質の人たちがこの現象に陥っているかどうかは、今のところはっきりしません。しかし、ストックホルムシンドロームは、今や、世界特殊部隊の常識で、突入の際には、最新の注意を払っているそうです。

携帯電話を駆使。現代のテロリスト

今回の事件の対策本部によると、建物に閉じこもり軍や警察で包囲されているはずの武装グループのメンバーは、携帯電話などで頻繁に彼らの「指導部」の人間たちと連絡を取り合っているそうです。彼らは何度もチェチェンや外国にいる同士と電話連絡をとっているとのこと。インターファックスが確認したところでは、テロリストたちはアラブ首長国連合やトルコにいる仲間たちとも連絡をとっているらしい。彼らだけではなく人質にも携帯電話の使用を許可しているといわれます(たぶん彼らに都合の悪い話はさせないでしょうが・・)。だからラジオ局にしばしば人質の方から電話がかかってきて、それが生放送されています。電話の声を聞いていると本当にその人がテロに監禁されているとは信じがたいですが、そのリアルさが私たちの日常にとけ込み目眩を覚えるほどです。これも情報技術が発展した現代ならではテロリズムといえるのではないでしょうか。


ハカマダ議員とヨシフ・コブゾンが女の子を救出

お父さんが日本人のイリーナ・ハカマダ議員も建物のなかにドンドン入っていって武装グループとの話し合いを行いました。
ハカマダ議員によると、テロリストたちは「(ロシア政府は)自分たちの指導者の要求の多くを実行せず、人質たちを無視している」と語ったとのこと。「クレムリンが話し合いに積極的に加わることが重要だ」とハカマダ議員は強調しています。



国会議員で誰もが知っているシブ〜イ国民的歌手のヨシフ・コブゾンも、同じく劇場に入りテロリストたちと交渉しました。そして「最も小さい」3人の女の子を連れて建物から出てきました。しかし「それ以上は誰も出さない」と言われたそうです。
ヨシフ議員によると
「私が話した(武装グループの)女性の手にはリモコンがあった。これで全てを爆破できると彼女は断言した」


ロシア全土に広まる不安と恐怖・ロストフ・ナ・ドヌーの幼稚園では・・・

いまロシアの人々は15分おきに放送されている特別ニュースを固唾を飲んで見守っています。

モスクワから南東に1000km、黒海沿岸の町「ロストフ・ナ・ドヌー」の幼稚園では、警備がまったくいない幼稚園で働いていることがどれだけ恐ろしいことか保母さんは痛感しています。

女性と子供しかいない幼稚園には予算不足のため警備などいません。夕方に一度見回りの男性が回ってくるだけ。
園長先生:「彼ら(過激派)はモスクワでやったようなことを、ここでもやるかもしれない。 危険と恐怖を感じています。しかし、ここではだれも助けてはくれないのです。」 古いゴリゾント製(ロシア製)の白黒テレビで事件の推移を見ながら、保母さんたちは、人質たちの命を自分たちのことのように心配しています。 彼女たちがいま切実に感じていること:ロシアには「守られているという感覚」がない・・・


よりによってこんなときに・・・
スコーピオンズのメンバー。「俺達のファンが同じような目に合わないよう願うよ」

明日、ロシアでは異常に人気のあるヘビーメタルグループ「スコーピオン」がモスクワでコンサートをするそうです。主催者側は中止を検討したようですが、メンバーは「出演する」と主張。計画通り行われそうです。テロに屈しないメンバーの勇気には敬意を表しますが、何か起きないかと心配です。

ちなみに、アーラ・プガチョワは、「事件が解決するまではミュージカルをする気分ではない」と言って、人気ミュージカル「シカゴ」の当分の公演中止を決めたそうです。



そして最後通牒が突きつけられた・・


携帯電話で肉親に電話してきた人質の話によると、武装グループはついに最終期限を設けたとのこと。「土曜日(26日)朝6時までにロシア政府が彼らの要求に応じない場合、人質たちに一斉射撃をはじめる」と彼らはいっているそうです。

武装グループの要求は以前と変わらずと唯一つ。「チェチェンにおける対テロ作戦を中止し、ロシア軍を撤退させること」です。


一刻もはやい事件の解決と、ロシアが安定した安全な国になってくれることを心から祈らずにはいられません。(gonza)

射殺された二十歳の女性。武装グループは「劇場内に無断で入ろうとしたので撃った。人質ではない」と主張してます。
死体には銃身で殴られた跡が。発見されたとき所持物がなかったために身元が判明していません。



前回報告:「人気ミュージカル劇場を武装グループが占拠。ロシアに残るチェチェンの爪跡(10/24)」を読む


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