2006年11月16日
**72号** マリインスキーまでの道のり
===5月10日 夕方のサンクトペテルブルク ====
街は夕方の帰宅ラッシュ。ジーマとナターシャも帰宅を急いでいるよう。
ネフスキー通りの地下通路で、ジーマとナターシャが「ここが良いわよ」というように、小さなチケット売り場のおばさんに声をかけている。そして「500ルーブルで安いよ。どうするかい?『ボリスゴドノフ』というオペラだよ」。
オペラよりも芝居が良いけれどもなあと、贅沢な気持ちを持ちながらも「ええ、それ買います」。
ジーマは「劇場が終わったら僕に電話をしなさい。ナターシャが途中まで送っていくからね」と言い、なぜか急いで地下鉄乗り場方面へ消えていきました。
ナターシャも急ぎ足で、でも私の歩みに合わせてくれながら、おしゃべりしながら、マリインスキー劇場(以後、略称のマリンカで)へ向かっています。
ナ;「ドイツへ行ったことあるの?」
マ:「ええ、ミュンヘンへ行ったことあるわ」
ナ;「私も行ったけれど、仕事だったから、博物館や美術館だった」
マ;「私はショッピングしたけれど…」
ナ;「夫がドイツ関係の仕事で、彼はドイツに詳しいから」
マ;「はあ、そうなの…」
ナ;「ドイツは近いから」
…
…
…
と、なぜかドイツ話題のナターシャさん。
途中で魚を売っているのを見つけた私が、近寄ろうとしたら、「きょうはだめ、時間がないからね」みたいなことを言われて、「あら私は買わないけれど…」と、思ったのでした。
この魚はサンクトペテルブルクの春の名物だとか、わかさぎのような鮎のような形にみえたが、近寄っていないのでわからない。魚が好きな私は、魚が見たかったのに。「小麦粉をつけて油で焼くと美味しいわよ」と、ナターシャ。
私がカバンから地図を出そうとして、カバンに手を入れたら、カメラを出すと勘違いして「きょうは時間が無いから写真は後にしなさい」とも、言われた。
たしかに、マリンカ開演時間は19時から。もう18時20分だから、ナターシャも焦っているようだ。でも、ないかな、早く帰りたいのかな。
センナヤ広場という地下鉄駅で彼女は、「ここからマリンカはすぐ近いから、ひとりで行きなさい。この運河に沿ってね……。じやあ、またね。そうそう、ジーマに必ず電話するのよ」と、走って地下鉄乗り場の人ごみに消えました。
言われたとおりに運河に沿って歩くと、だんだんさびしい道になっていくし、マリンカらしい建物も見えないし……。あれれ??
持っていた地図でマリンカを確かめてみるが、このあたりにあると思われる、あらら?
むこうからやってくるおしゃれをしている女性(仮称ターシヤ)に聞いてみることにしよう。
マ;「マリンカに行きたいのですがこちらでよろしいかしら?」
タ;「まあ、マリンカはここと違います」
マ;「どこ……?」
タ;「私についていらっしゃい」
マ;「以前にマリンカは行ったことがあるけれども」
タ;「すぐ近くよ」
タ;「日本人かい?ひとりかい?」
マ;「そうです」
と、ターシヤさんは、私の手を引いてくれる。
タ;「ほら車に気をつけてね。車が多いところだから」
マ;「ありがとうございます」
タ;「日本も車が多いでしょ」
タ;「日本の映画を見たことがある。サムライの映画、クロ???」
マ;「クロサワ?」
タ;「そうそう、クロサワ。サムライの映画、日本は興味あるけれど言葉がわからない」
ターシヤさんは私の手をまだというか、車が近づくたびに手を引いて、私を道の端っこに寄せてくれる。
タ;「マリンカはきょうからはじまるから。ゲルギエフは素晴らしいわよ。マリンカはすてきよ」
高級なウールのスーツに高級なバッグを持ち、髪飾りをさりげなく飾った奥様のターシヤ(仮名)は、私をマリンカのドアの前まで送ってくれました。ずっと手を引いて、です。すっごく感動してしまいました。
恐い街と言われるけれど、どこが恐いのですか?とも思えますねえ。こんな親切に出会うと街中の人たち全部が優しく美しい人たちと、固く信じたくなります。
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「このような親切に出会うと町中の人が~」・・本当に感激してそう思いますよね。私もそのような経験を度々します。そしてその時、「だれかが私のちょっとした助けを必要としていたら、精一杯の親切な対応をしよう!私がしてもらったように。」と思います。ところが、あとで「ああ、あの説明は言葉たらずだった・・・」と情けなくなることも多々あるのです。その御婦人は、マーミンカさんの手を引いて案内してくれるなんて心の底からの思いやりですね。私なら、行きずりの人に手を引いて・・・は、ちょっと出来そうにないです。それにしても、黒沢明監督の知名度はすごいですね。
青木様 いつもありがとうございます。
ステキなロシア人女性が歩きながら「クロサワ……」とひとことだけ言ました。
でも、そのときは、なにしろ、目指せ!!マリインスキー劇場の私だったので、気にも留めなかったのです。あとで、あの女性はタダモノではないなと、強く思いました。
私のことがよほど危なく見えたのだと思われます。マリインスキー劇場の近くで「どこかわからない」と言っているこの日本人、なんとかしてやらなけりゃあ、ずっと劇場を探し回っているわね。と、助けてくださったのです、きっと。ありがたいことです。