2005年10月22日
【 57号 】 映画撮影現場から (長文)
~~8月8日 モスクワやや涼しくなってきた午後~~~
どれだけ時間が経っただろうか。俳優シューラ(アレクサンドル ゴルシュコフ)はかなり気合が入っているので、空きの時間も厳しい顔をしています。私のそばに来ても黙って座っているだけです。もう、付き合いも長いので、こういう時間には声をかけないほうが良いだろうことはわかります。
また、場に付き、演技に入るとイタズラのデカイ少年になります。

私は、座っているだけではタイクツです。でも、でもどこにも行けません。そっとここを抜け出して、町の探検に行こうかな?黙って行っても、告げて行ったとしても、どちらでも彼が心配して演技の世界が壊れてしまいます。ここは彼のためにじっとガマンです。
が、もうひとつだんだんガマンできない事態が私に起こりつつあります。困ったな~、どうしようかな~。そうです、これは生きていくうえで大事な大事なことです。ずっと外にいますし、あたりの様子もわかりませんし……。
スタッフの女性たちはどうしているのかな?だれかに聞いてみようかな?
と、撮影現場すぐ近くの事務所から、お姉さんたちがドアの前で見学しているのが目にとまりました。
ロシア語で、「ごめんなさい、トイレを貸してください」とお願いをしましたら、気持ちよく「どうぞ、こちらよ」。助かりました。ホッとしました。生き返りました。
「なんと言う映画なの?」とその事務所の若い女性に聞かれましたが、「私は知らないのです」と答えると不思議な顔をしてました。
おなかも空いてきました。こういうとき日本はロケ弁だよなあ。時間はもう午後3時です。撮影現場はすっごく緊張感がいっぱいで、俳優たちもスタッフも休憩もありません。手の空いた人がお茶を飲んだり、どこかへ消えてはすぐ戻っていますが。
シューラがそばに来て「昼食食べましょう」と言うので、私はてっきりどこかへ食べに行くのかなにかを買うのかと思ったので、「お金持っていないし」。きょうは両替をしなければルーブルを持っていないのです。ヘンな応えをしたのでシューラは苦笑しています。「お金は要らないよ」。エッ???
ロケ弁でした。ロシア料理ロケ弁です。
ロケバスの中には、各種お弁当が用意されていました。「好きな物を取っていいよ」。
私は、そばの実(гречка)を主食に、豚肉とサラダの詰め合わせのパックとトマトスープにしました。パンは別にきりわけてあります。果実のパック詰めもあります。それらを手にして、シューラといっしょに現場からちょっと離れた、小さい公園のベンチに座って食べました。でも、シューラは出番を気にしているのがわかります。美味しいロケ弁ですが、ちょっと落ち着きなく食べました。シューラも大急ぎで食べてすぐに次の場面の撮影に入っています。

イーゴリさんがいよいよ登場です。彼は主役級でしょうか。彼用のイスがあり、メイクも衣装も彼専門に女性がついています。イーゴリーは、さっきまで短パンのお兄ちゃんでしたが、黒いスーツになって現場に入るとますます光ってきました。でも、彼の出番も少しづつ細切れです。
待っているのが映画俳優でしょうか。緊張感と集中力の緩急自在さに敬服します。カメラの前に立つとピシッとサッと演技に入り、はずれるとさっと顔がかわり、でも、また役になるとすごい光を放ちます。これができなければ一流ではないのでしょうか。
そんなことを、シューラやイーゴリーたちを見ていてわかります。演技の集中力はすごいものです。もちろん映画の撮影だけではなく舞台でも同じことです。
だんだん風が冷たくなってきました。シューラがそばに来て「まだ終わらない。いまから別の場面を撮影して、また僕たちの撮影がある」とちょっと不満そうです。この後の約束のことを気にしているようですが、仕方がないですね。

さっきから暑い夏なのに冬服を着て見学している女性がいます。出演の女優さんでした。彼女の出番の撮影が、ちょっと向うの建物の前でされています。覗きに行きました。
カメラは窓辺にたたずむ彼女と窓から手を振る彼女を写しています。もちろん、照明スタッフやいろんなスタッフが動き回っています。
映画撮影スタッフも厳しい仕事です。緊張感の仕事です。照明スタッフのリーダーの動きがどんどん活発になってきました。機材も大きくなってきました。日が長いモスクワの夏でも、太陽の動きで明るさは一日中均等ではないからでしょう。照明スタッフの若い兄さんは午前中は、本を読みながらのんびりしていましたが、いまは忙しそうです。時々リーダーから厳しい声も飛んでいます。
監督は自分も俳優をやっていますから、その動きはすごいものがあります。衣装係は気がぬけません。監督が俳優となるとさっとその場面の衣装に着替えさせます。監督はさっと俳優になり、役に変身です。役者の手に持たせる道具類もさきほどから、並らべられています。小道具係ですね。彼女はさっと役者の手に道具を持たせたり、離させたりを機敏に動いています。どうも革のかばんが監督は気にいらないようで、かばんを投げたり踏みつけたりして、“古く”しているのは小道具係です。
また、撮影場面は変わりました。火が出てきましたよ。シューラがその火を点けるようです。
悪ガキ君は、かばんや衣服を監督がやっている役がらから奪ってしまい、それらに火を放ち燃やしてしまいます。火が立ち上らねば画面的に面白くないからガソリン?でしょうか。火が大きく出ます。危ないなあ、と私は心配しています。
その場面は火の勢いが問題なのか、かなり細かい指示が監督からでているようです。シューラがリハーサルを繰り返しています。もちろん危なくないように助監督がウラで細工をしています。おもしろいですね。こういうのがあって面白い映画ができるのですね。
無事、火を使った撮影も終わりシューラの撮影も終わったようです。監督と熱く握手をしています。
すぐにシューラは、事務方らしき女性のところへ行き、なにか書き物をしています。メイクを落としているとその女性がシューラになにか渡しています。本日の賃金です。いくらなのかは私の知るところではありません。そして、衣装の赤いシャツを「もらったよ」と嬉しそうにしています。
私はすっかり疲れました。そして、そろそろまた要求があるのですが、もうここは引き上げるのでしばしガマンしましょう。時間は午後7時は過ぎていますが、まだまだ明るいモスクワです。でも、きょうはちょっと冷えます。日本でいう秋が近づいてきた夏の夕暮れのような気配です。
「この近くでユリアが待っているよ」。ユリアさんは、万博ロシア館で通訳で働いているコースチャのお姉さんです。弟のために持って行って欲しいものがあると言いましたから、会わねばなりません。
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