2005年08月24日
【 26号 】 夏の夜に観る芝居 1
~~~ 8月3日 夕方 モスクワにて~~~
「芝居は午後7時からだからね」とシューラは、車をやや急がせています。交通渋滞にはまってしまったらそれこそ、開演に間に合いません。どこをどのように走っているのかが、だいたいわかってきました。クレムリンが見え、ゴーリキー公園が見え、ガガーリンさんが空を目指している通りを走り……。私たちは、モスクワ南部にある小劇場 ユーゴザーパド劇場へと走っています。
モスクワにはいくつ演劇専門劇場があるのでしょうか?いまこうして車で走っていても、いくつも「劇場」の看板を見ます。ほとんどの劇場が夏休み中です。
ロシアの演劇シーズンは、だいたい9月半ばから翌年6月半ばくらいまで。一番俳優がノッテいるのは真冬です。氷点下の雪吹雪の夜にも、観客はワクワクしながら劇場へ足を運び、こころからお芝居を楽しみます。外の寒さも雪の汚れも、まったく感じない別世界の劇場で、人生を楽しみます。
いまは、夏の盛りです。きょう、ユーゴザーパド劇場では新作発表です。昨日8月2日と3日の2日間だけの発表会です。チケットも公開販売をしていません。でも、公演は公表されていますので、私も日本から公演情報は知っておりました。
昨日(8月2日)モスクワ着の飛行機が遅れなければ、劇場へ行っていたのですが、1時間遅れた飛行機ですから、劇場行きはきょうとなりました。
演目は「重婚のタクシードライバー」 Слишком женатый таксист =アメリカ人作家 Р. Куни の作品です。シューラは出演しません。彼が出演していれば空港への迎えもいっしょに町を歩くこともできませんでした。
さて、劇場へ到着しました。劇場前では、俳優たちと会いました。人気俳優 オレグ レウーシン(日本公演の『検察官』で主役を演じた俳優)や、オリガ イワノワ(『巨匠とマルガリータ』では妖艶なマルガリータを演じる女優)らと再会を喜びました。レウーシンがまたきれいになって輝いています。
劇場の中はすでに観客が集まり、どこかから、この劇場の演出家 ワレリー ベリャーコビッチ氏が現れました。彼は観客にあいさつをしながら、私をみつけてくれました。「おお、よく来てくれました」と、熱く抱擁をしてくれました。尊敬する大演出家です。私もうれしくってたまりません。ちょっと体調を崩していた彼を心配していましたが、いまはとても元気で、だから新作が発表できるのですね。良かった。
ベリャーコビッチ氏はシューラが幼いころから憧れていた演出家であり、シューラは演劇大学で演劇を学ぶ学生時代から「彼の芝居を演じたい」=つまり彼の劇団に就職したい=と願い、それは実現したのです。ロシアでは、演劇大学を出てプロの俳優であり、劇場演出家らに認めれらてはじめてその劇場に就職でき、きびしいけいこを通じて、役を得ることができる、まさに実力の世界です。
どこやらの国のちょこっと可愛いからとか、大手プロに所属しているとか、金銭の力を振りかざして役につくとかで、俳優が生まれるなどの演劇界ではありません。
ここの客席は120席ほどです。小さい劇場です。舞台が底にあって、客席が山になっています。一番前の席は、俳優がすぐ目の前で演じます。俳優の汗もつばも飛んできます。でも、はっきりと客席と舞台には、境界があります。
この境界は、私たち観客が入ってはいけない越えてはいけない、ものです。が、芝居がはじまると、舞台と観客席がみごとにひとつになります。劇場全体がひとつになる感動がまた、たまらない。
と、いう訳で、私がどれだけ、モスクワで芝居に酔っているかがお分かりいただけたかと思いますが、そろそろお芝居の中へ入りましょう。
もちろん、ロシア語です。字幕もイヤホンもありません。
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