2010年11月28日

●ロシア語珍問奇問第16回

ロシア語が自由に読めても会話に自信がないと言う人は、発話用(言語運用上)の語彙активный запас словが不足しているからである。修理をロシア語で何と言われるかと聞かれてремонтが頭に浮かんでも、それはクイズの回答のようなもので、実用にはならない。重要なのは語彙である。修理よりは修理する、あるいは「~の修理をする」という言い回しが浮かぶかどうかである。ちなみにこれは、проводить ремонт + 生格で、できれば文を暗記すべきである。しかし、ロシア文にするためには、完了体と不完了体の使い分けが出来ていないと、ロシア語らしい文にはならない。会話は使わなければうまくならないし、もっというと無理やりそのような立場に自分を追い込まない限り上達は望めない。そういう意味でプロ志望の通訳やガイドなどはそういう機会を自分から求めて行けばうまくなる。語彙は一見同じようでも、読んでわかる、あるいは聴いて分かるという語彙пассивный запас словと、自分で話すための語彙активный запас словの活用度は違うのである。
和文露訳で一見簡単な単語や言い回しが実は訳しにくいものがあるというのは何度か言ってきたが、意味上一致するものもある。油脂という語は常温で液体(油)と固体(脂)であるものを示している。ロシア語ではмаслоとжирがあるが、маслоは乳脂肪、植物の種由来の油、鉱物性の油を指し、жирは一般的に動物の体に蓄えられた脂肪分(живодтные жиры 動物性油、には乳脂肪も含まれる)だが、例外的にрастительные жиры (= растительные масла、種や実から採った油分)ともいう。必ずしも常温で固体という意味ではない。ヘット(牛脂)はговяжий жирで、ラードはлярд, смалецとかсвиной жирだが、ロシア人には塩漬けにしたшпик (шпек)のほうが分かりやすい。салоはжирと同義語だが、現代では動物の皮下脂肪層подкожный жировой слойを指すのが普通で、свиное сало(豚の脂身)などと使う。会話ではсалоは特にウクライナ人の好むもので、酒の肴である。皮脂はкожное салоという。рыбий жирは肝油(タラなどの肝臓から取れる)であって、魚油(イワシやニシンを煮て取った油)ではない。 魚油はロシアでは使わないようで、ぴったりする訳語が見つからない。ロシアの初代領事ゴシュケーヴィチГошкевичとともに医務官として箱館(後の函館)に赴任したアリブレヒトАльбрехтは箱館に1859年から1863年までいたが、そのときを回想した文章に、В апреле и мае производится здесь изобильная ловля сельдей, у которых вываривается масло, употребляемое в лампах.(4月と5月に豊富なニシン漁が行われる。そのニシンからランプに使われる油が煮詰めて得られる)とあるぐらいである。

Posted by SATOH at 2010年11月28日 16:45
コメント

ご無沙汰しております。
秋の展示会シーズンも工業英検も何とか終了し、
わずかながらロシア語に目が向く時間が取れました。

>проводить ремонт + 生格
ремонтироватьで済まそうと思ってましたが…
やはりちゃんとした言い方があるのですね。
いい機会なので、研究社でремонтを引いてみますと、
修理に出す отдать в ремонте+対格
(機械や道路、建物などが)修理中 на ремонте
の使い分けを知ることができました:
・修理屋さんに持っていける小さいものはв+前置格
・でかすぎて動かせないものはна+前置格
と理解しました

>сало
完全に食材としての豚脂と思っていました。
皮下脂肪層のことなのですね。

>рыбий жир
рыбныйの綴り間違いか思たら
ほんまにрыбийなんや…
рыбное топливоかな
と思い、心当たりを検索してみましたがわかりませんでした。
何と言うのでしょう。引き続き調べてみます。
次回以降のロシア語珍問奇問で取り上げてください。
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отдать в ремонтであって、отдать в ремонтеではありません。ちなみに研究社のでもв ремонтです。別に大きいからнаで、小さいからвということではなく、на ремонтеというのはИдёт ремонт.ということで「修理中」という意味です。в ремонтは、принять, отдать, сдать, отнести, отправить, отвезти + 対格とともに用いられ、「修理に」出す、受け入れる、持って行くという意味です。в ремонтеは、Часы находятся в ремонте.(時計は修理されている) Часы нуждаются в ремонте.(時計は修理が必要だ)という例文でわかるように、状態の動詞とともに使われます。ремонтが対格になるか、前置格になるかというのは主として動詞によるということが分かると思います。Магазин закрылся на ремонт.(店は修理のため休業した)とか、поставить оборудование на ремонт(修理のために装置をデリバリーした)というのも正しいロシア語です。

Posted by コーシカ at 2010年12月08日 23:19

>отдать в ремонте
失礼しました、格を間違えておりました。

>ремонтが対格になるか、
>前置格になるかというのは
>主として動詞による
まとめてみました:
・対格は修理に出す/受け入れる/持って行く
・前置格は状態の動詞とともに使われる
・вをとるかнаをとるかは動詞の要求による

修理というのはよく使う語だと思います。
今後も注意して見てみます。

ありがとうございました。

Posted by コーシカ at 2010年12月10日 00:41
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