2008年10月30日

●新帯研 第35回

最近発売された「時事ロシア語」(加藤栄一、東洋書店)は非常によい企画であり、よい参考書である。時事ロシア語は世界共通語としてのロシア語という意味から、ロシアらしさを最小限に抑えているため初心者には理解しやすい。辞書に載っていない語彙でも、インターネットで似たような日本語の記事を探すだけで、ある程度正しい意味が分かる。そういう意味で、初心者向けにはチェーホフやトルストイなどロシア文学を教材とするよりも、時事ロシア語の方がよいし、通訳やガイドを目指す人にとっては将来に向けての基本的な語彙をつける意味もあるので、この参考書を使った勉強を勧める。ただ、強いて難を言えば、著者は本書を時事ロシア語の入門編と述べているが、この本は初級と中級の中間のような気がする。入門編あるいは初級向けということなら、収録数を2/3にぐらいにして、構文としての説明をつけた方が初心者には親切だろうと思うし、今後和文露訳をする参考にもなろう。多分筆者は中級者向けに第2弾を考えていて、次作はそのようなものにしようとしているのかもしれない。時事ロシア語全般ということで語彙が広く取られているのには感心するが、やはり宗教関係をいくつか削っても環境関係をもう少し増やした方が時節柄よいと思う次第。
学習者の方もロシア語の参考書を用いる場合に、ただ露文解釈の語彙を覚えるだけではなく、構文として使えないかを考えるべきである。参考書を作る側からも、参考書にある例文の和訳は、和訳から同じような同じようなロシア語が作れるような意訳でもない、かといって日本語としておかしくないものというのが理想的である。つまり露文解釈から和文露訳への道筋が十分に立つようなものを載せるべきである。
その他にロシア語をマスターするには理論面だけでは不十分で、実践面でもロシア人と堂々と渡り合ってゆけるようでなくてはいけない。つまり露文解釈を深く勉強することは必須ではあるが、それで止まっていてはいけない。露文で使えると思った表現を暗記して、それを会話などの和文露訳で使い、そういうことを続けて初めてロシア語が使えるということになるのである。繰り返すが露文解釈から和文露訳へという道筋で勉強をすることを考えないといけない。それとプロになるつもりなら、実践面(例えば日常会話ができるとか)だけでも駄目で理論(文法)の裏づけがなければ、後進にその技を伝承することはできないということになる。
勉強する上で実務者にとっては頻出する文法事項、語彙が重要であって、必ずしもあまり使わない文法事項や語彙の説明まで当座は詳しく勉強する必要はない。つまり重要なところとそうでないところに、自分なりに優先順序приоритет (priority)をおいた参考書が必要になる。文法事項でも全体を過不足なく網羅したものも初心者には必要だが、実務者にはわかりにくい体の用法などを詳述したものが必要とされるゆえんである。浅く広くではなく、ポイントを抑えた(ピンポイントの)深く狭くということである。今回の課題は、
Бракоразводный процесс. Разводятся волк и лиса. Спрашивают волка: «В чём причина развода?»
- «Хитрая, рыжая и пробу негде ставить».
Лиса:
- «Не хитрая, а умная. Не рыжая, а золотая, а какое же золото без пробы».
設問)和訳せよ。オチを別に解説してもよい。

Posted by SATOH at 2008年10月30日 14:32
コメント

ロシア語から日本語へ訳していたのを逆にやろうとすると結構できないものですね。和露が瞬時にできないと「およびでない」ということですね。
今回もオチにいま1つ自信がありませんが、回答します。

<和訳です>
離婚訴訟。狼と狐が離婚することになった。狼への質問:「離婚の原因は?」
「ずるくて、赤毛だし、おまけにふしだらなんです」
狐が答えた:「ずるいのではなく賢いんです。毛の色は赤ではなく金なんです。大体、検査もされない金なんてどこにあるのかしら(みんな試してみたがる)」

пробу негде ставитьには「どこにも極印を押せない」から「信頼できない」「ふしだらな」という意味になったようですね。 какой же・・は「いったいどんな・・があるのか(いやない)」という反語表現のようですので、какое же золото без пробыは「刻印がない金などない」という意味と「検査されない金はない→(このきらきら輝く金髪女性の私をだれもほうっておかない)」という意味の2つがかぶっているのは、と思いました。

Posted by takahashi at 2008年11月09日 15:57

私も、基本的にtakahashi さんと同じように理解しました。一応、「枯れ木も山の賑い」のつもりで投稿します。金髪のзолотаяとкакое же золотоのзолотоは同じかどうか迷いました。後者の золотоは髪を指すのか、自分のこと全体を指すのかわかりませんでしたが takahashi さんの回答を見て納得しました。

離婚法廷。狼と狐の離婚。狼に質問が出されました。
「離婚の原因は何ですか?」
「ずるいし、赤毛だし、品位がないんです」
狐 「ずるいんじゃないわ、賢いのよ。赤毛じゃなくて金髪なのに。それに、品位のない金なんてあるわけないでしょ」

Posted by メイ at 2008年11月12日 23:34
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