2007年03月07日

●モスクワ本屋めぐり(未発表、1991年ごろ)その1

本格的にロシア語をやろうと決心したら、その時点では読めなくとも、また使えないと思っても、まずロシア語(関係)の本や辞書を買い集めるべきである。そういった場合、先立つものが限られているのは誰しも同じである。現地で買ったほうがはるかに安いのは自明の理だが、欲しい本は簡単には見つからない。そこでどうやって欲しい本を安く手に入れるか5年間のモスクワ暮らしで得たノウハウと、昨今の本屋事情を踏まえて、少し話しが脱線するかもしれないが書いてみる。
 日本から持参すべきなのはナップサックか丈夫な布製の大きなバッグ。何に使うかって?無論本を入れるためだ。僕は1回のソ連出張で60冊は買ってくる。会社の上司からほんとに仕事に行っているのかかなり疑惑の目で見られている。エクセス(超過重量)用にソ連航空のチェックインカウンターのお姉さん用にカレンダー2本は別に用意しているくらいだ。これでエクセスはチャラかかなり値引きしてもらえる。まず空港で100ドルをルーブルに換えた。早速向かうのはアルバート通り。地下鉄はスモリェンスカヤ駅。普通のタクシーは止まらないし、最近の白タクは物騒なので地下鉄を利用すべきだ。体の弱い人はモスクワ本屋めぐりはあきらめたほうがよい。アルバート通りの入口でコマンヂールスキエという軍用時計(正確には軍用まがいといったところか)を何人かの若者が売っている。20ドルだというのでやめた。40年ものの本物なら価値はあるのだが。ゴルバチョフのマトリョーシュカ(入れ子式の人形)をたくさん売っている。ゴルバチョフの次はブレジネフで、その後はフルシチョフ、スターリン、最後はレーニンとなっていた。フルシチョフがトウモロコシと靴を持ち、頭には靴の足跡がついている。ゴルバチョフがメガネをかけていた、顔も似ているのがあったので買うことにした。パチョムПочём?(いくら?)と聞くと300ルーブルだという。小声でドルならいくらだと聞くと、左右を見渡して20ドルだという。おおっぴらじゃまずいので、別のマトリョーシュカに20ドルを入れて見えないようにしてくれという。厄介な話だ。1ルーブルに両替してはいるが、ドルで買ったほうがはるかに安い。円ならいくらだというと聞いたら、どこからともなく両替人がドルのいっぱい入った袋を持って出てきて、計算機でたちどころに教えてくれる。結局マフィヤが仕切っていて、警察にも鼻薬をかがせているが、警察の面子もつぶさないようにしているようだ。他に絵やポスターも売っている。肝心の本はと言えば、キオスクで定価の5、6倍で売っていた。見るとソルジェニーツィンの本が30ルーブル(720円)、革命前のアネクドートの本が75ルーブル(1800円)だ。外貨店の半額なので買った。ここにある古本屋にも入ってみたが、ルィバコーフの「アルバートの子供たち」が25ルーブル(600円)で売っている。ロシア人にとっては本は高い買い物だが、外国人にとってはレートのおかげで安い買い物といえよう。まあそんな物好きはあまりいないだろうけど。
 もし土日に体が空いているのなら、イズマーイロヴォの青空市場に行こう。地下鉄はイズマーロフスキーパルク駅で降りる。4、5年前から近くの教会で絵を売り出していたのが、3年ほど前にヴェルニサーシュ(特別展示会)と銘打ってイズマイーロヴォ公園の入口近くで、絵やみやげ物をうるようになった。その頃は結構掘り出しものの絵もあったらしい。1990年夏に駅をはさんで反対側に移ったという。僕の行った日は、少し吹雪の日で駅を出てしばらくすると風で森の木がゆれているように見えた。それが人の集まりと気づいたのは、少し歩き出してからだった。マトリョーシュカやラープチлапти(草鞋)、絵、漆塗りの手箱шкатулкаや本があった。プィリャーエフの「古のモスクワ」(1891年のリプリント)を見つけたので、値段を聞いたら25ルーブル(600円)だというので、財布を取る手ももどかしく払った。よかったよかったと思いながら、さらにずんずん歩いてゆくと、T字路にぶつかった。階段になっていて入場料50カペイカ(12円)払えというので払った。以前はそんなものなかったのに、まったく世知辛くなったものだ。払っただけのもとは取るつもりで会談を上ってゆくと(階段では切手を売っていた)、何とマトリョーシュカの素材(絵を塗る前の白木でちゃんと入れ子式になっている)を17ルーブル(408円)で売っていたので、娘の土産に4個くれと言ったら、あと3個買ってくれたら110ルーブルにしてやるという。いくらなんでも7個は多いし、あまりきれいじゃないので4個の代金72ルーブルというので、言われるままに払った。しつこくあと3個で今日は店じまいなのにとブツブツ言う。なんか変だなと思ったが、地下鉄の中で気がついた。あれは72じゃなくて68ルーブルだったと。だまされたというよりは双方足し算がうまく出来なかったのだろう。今までソ連でつり銭をごまかされたことはない。結局その後「ソ連の民族の衣装」という本を買った。100ルーブル(2400円)というのを10ドル札を手袋に入れてこそっと渡した。腹が減ったので10ルーブルで豚のシャシュリキー(串焼き)を食べた。美味しかった。羊ではなく豚とは珍しい。実に充たされた気持ちで家路(ホテルだけど)についた。 

Posted by SATOH at 2007年03月07日 22:18
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