2007年02月02日

●帯研(第48回)

幸い拙著「ビジネスロシア語」の売れ行きがよく、発売後1週間で増刷が決まった。もっと売れて欲しい。本を出版した関係もあって、「ビジネスロシア語」に関するサイトを調べてみた。いろいろな大学で「ビジネスロシア語」という講座があり、某サイトではご親切にも「ビジネスロシア語」会話まで紹介している。ただ気になるのは、講師にはロシア人もおり、講師の先生方のロシア語のレベルは当然高いとは思うが、日露あるいは日ソのビジネスを5年以上(10年以上が望ましいが)経験された方が教えているのであろうか?日露ビジネスの経験もなくビジネス英語と同じつもりで教えているのであれば、随分実態とは違うものとなっているわけで生徒が気の毒である。チェーホフを読まずして、チェーホフについて語れないし、チェーホフの全作品を読んだからと言ってチェーホフ作品の講読を大学で講義できないだろう。同じことはビジネスロシア語にも言えるはずだ。例えば、実際のビジネスでのクレームでは、5W1Hをはっきりさせないと、ロシア側から何寝ぼけたことを言っているのかと言われる。それなのに、あるサイトにあるクレームの会話では、「貴社は何度もデリバリー(商品の納入поставка)が遅れたので、もう取引を止める云々」という会話が出てきたが、1回でも納入遅延があれば、その都度クレームを立てるわけで、具体的に船積状況(船名、日時、港)など詳しくクレームアクトに記入して相手に連絡するのが常識である。このようなあいまいな会話をクレームのつもりでロシア人に言えば、証拠も示さずにいい加減なことをいう奴だという事で、こういう担当者を代えてくれと言われるか、最悪取引停止となり、笑い事ではすまないのである。仮に商社に勤めていたといっても業務部(ソ連室やロシア室も含めて)の管理部門で営業を経験していなければ、実際のビジネスのやりとりを肌で感じたことにはならないのではないかと思う。日露のビジネス経験もなく教えているのであれば、ビジネスロシア語の看板を下ろして、一般ロシア語講座とすればよい。それはそれで役に立つこともあろう。実際の商談の流れについて書こうかと思ったが、長くなるので次回にする。今回は隠語に関する小話を一つ。多分勘や類推で正解に近いものを書けるかもしれないが、これらの隠語が載っている隠語辞典を見つけるのは大変だろう。今回は勘や類推でもよいので、訳にトライしてほしい。
Судья просит подсудимого описать произошедший случай. Подсудимый встаёт и начинает рассказывать: «Ну что три копейки диферить, попусту фармазонить, зашли мы с корешом Федькой в кабак, взяли два фанфурика, вмазали. Вышли – штифтами зыркаем, глядим – две клюшки киряют, штанами шуршат. Ну мы их за рога и в стойло на укол. А тут «кубики», баня свободная. Кости на сиденье кинули, поехали, рули – верти. Сперва по просеке Ленина, потом на хауз-камьюнике,а там всё пучком. Три свечурки горят, патефон играет, ну мы туда. И ту менты землю роют, шифером шуршат. Дверь с петель сняли, тут нас и загребили». Судья возмущён: «Подсудимый! Что за жаргон в зале суда?». Встаёт адвокат и говорит судье: «Заткни пасть, волк позорный. Чувак дело молотит».

Posted by SATOH at 2007年02月02日 15:44
コメント

今回は本来ならギブアップです。ほとんど全部辞書にありません。こんなжаргонばかりの文章は初めてです。でも勇気を出して当てずっぽうでトライします。今回に限ってはまちがっても恥ではなさそうですね。逆に気が楽です。妙訳を笑ってやって下さい。いつまで待っていても調べてもわかりそうにありませんのでここらへんで提出します(笑)。
最初の文のтри копейки диферитьとпопусту фармазонитьはどうしても意味がつながりませんでした。три копейки は手持ちの俗語辞典だと①幼稚っぽく、あまり利口でない人間;馴れ馴れしく振舞う人間 ②簡単、単純なこととあり、диферитьはなく、дефирироватьなら、そぞろ歩く、練り歩くというのがありましたのでこれかとも思いましたがそれもわかりません。まさかインフレってことはないですよね。構文的にну чтоもいまいちわかりませんでした。попусту фармазонитьも、もしかしてよく似たような英語からきたのかもと英和辞典もひきましたが、見つけられませんでした。farmとか、formalizeとか。あとのほうのбаняもわかりませんが、タクシーとсвободнаяなら空車かと… хауз-камьюникеは娯楽施設の集まりのような気がしたのですが… шифером шуршатもよくわからず適当です。といってもぜ~んぶ適当ですが!! よろしくお願いします。


和訳)
裁判官が被告に、起きたことを詳しく話すよう求めた。被告は立ち上がり話し始めた。
「つまりさ、три копейки диферить, попусту фармазонить, 俺とダチのフェーヂカで、レストランにしけこんで、ウォッカ2本とって、それひっかけたのさ。そこを出て、目あけてよ~く見ると、パンツルックのスケ二人、酒飲んで歩いてるじゃん。俺らはそいつらナンパしてものにしようと連れ込んだわけじゃねえぜ。ちょうどタクシーがいて、空車だったんで、そいつに乗り込んで出発しただけさ。レッツゴー。まずはレーニン大通り、そのあとはハウス-コミュニケさ。そこは万事最高だからね。3ヶ所あかりがついてるとこがあって、音楽かかっててさ。で、俺らそこへ入ったのさ。ところが中じゃサツが取締りの真っ最中でやっきになってやがんの。ドアをちょうつがいからはずして、そこで俺らパクられたってわけ」
裁判官は腹をたてて言った。
「被告!法廷で隠語を使うとは何事ですか」
弁護士が立ち上がり、裁判官に言った。
「黙れ!この野郎、ヤツはマジでしゃべってんだろうが!」
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訳は日本語でも符丁(隠語)を使っており、気持ちは評価しますし、訳もほとんどOKです。ただ、単語の訳が分からなかったところ(これはよい隠語辞典を買えば済むことです)は別にして、「ドアを蝶番から外して」は誤訳です。これは警官がドアを蹴破って(その結果ドアがヒンジ(蝶番)ごと吹っ飛んだということです。ただこれだけ分からない単語があって、ほぼ正確にに訳せるというのなら翻訳者としてのセンスはあるということになります。もちろんロシア語の今後の精進も大切ですが、文法は上級ですから辞書をそろえれば(私はこの小話を訳するのに隠語辞典3冊使いました。どれかは私のサイトを参照ください)、翻訳の仕事が出来ると思います。とりあえず好きな分野で和訳の練習をすることを勧めます。私の訳は、
訳注)*три копейки диферить – говорить ерунду; *фармазонить – обманывать; кореш – друг; *фанфурик – флакон одеколона или пузырёк с лекарственной настойкой, употребляемай алкоголиками; вмазать – употреблять наркотик или алкоголь; штифты – часы; *зыркать – время от времени посматривать; *стойло – закусочная без стульев; клюшка – девушка; кирять – выпивать; шуршить – скандалить; на укол – на половой акт; *кубики = баня = такси; кости кинуть – сесть; всё пучком – всё в порядке; свечурка – свечка; рыть – идти; просека – проспект; волк позорный – работник правоохранительного органа; *молотить – говорить; хауз-камьюнике – Дом-Коммуна; шифер - голова (*やや難しい隠語)
訳)裁判長が被告に起きた出来事を申し述べるように言いました。被告は立ち上がって、話し始めました。「下らんことをべらべらくっちゃべったり、駄法螺かましたりはしねえよ。ダチのフェーチカと飲み屋に入って、2杯ぐらい飲んだんだよ。外に出て時計チラチラ見たら、スケが二人飲んで大騒ぎしてるのが見えた。あいつら押さえつけて、スナックで一発やろうってわけ。うまい具合にタクシーが、空車が来たんだ。乗って、出発。ハンドル回せってやつさ。まずレーニン大通り、それから学生会館。そこじゃ万事OK。3本ロウソクがついていて、プレーヤーががなってたな。おれらもそこにってわけだ。とそのときポリ公がやってきて、騒ぎまくって、ドアも吹っ飛んだ(「ドアもヒンジから取れた」が直訳)。それでおれらもパクられたってわけ」裁判長はカンカン。「被告、裁判所の法廷で何ですかその隠語は」。弁護士が立ち上がって、裁判長にこう言いました。「黙れっつうの。このスットコドッコイ。人が話しているっちゅうのに」
解説)штаны – брюки; шифер – головаだと思うが自信はない。

Posted by メイ at 2007年02月06日 17:45

自分のブログのことまでご紹介していただきましてありがとうございました。せっかくご紹介していただいたところで申し訳ありませんが、アネクドートのみのブログにしたほうがいいかもしれないと思い、新たに「アネクドートの小窓」(http://anecdotenokomado.blog92.fc2.com/)というどこかで聞いたことがあるようなタイトルでブログを開設しました。アネクドートに関してはこちらを中心に行きたいと思います。さとうさん、ご紹介していただいたのにすみません。
よろしくお願いいたします。

今回は推測だらけでした。

<和訳>
裁判官は被告に事件の顛末を語るよう促した。被告は起立し話し始めた。「ぜんぜん金もねえし、何にもしねえで過ごしたんだよ。ダチのフェトカと酒場に出かけてさ、2瓶あおって、酔っちまった。外に出てあたりを見回すと、痩せこけた野郎が二人いて、酔っ払ってやがった。ホモ野郎さ。角のあるもんでちょっとやつらをとか、近くの小屋の仕切りの中で一突きになんてしなかったけどさ。「キューバ麻薬」を持っていやがって。で、思いっきり浴びたってことさ。でもって、二人のカマ野郎を放り投げ、車に乗り込んで出かけたんだ。どこへってわけもなくね。最初、レーニンの空き地を、それから温水プールに行ったのさ。そこはライトで照らされていてさ。3人の馬鹿野郎が息巻いていてさ、音楽がなっていだんだ。俺たちゃ、そこで向かった。するってえと、ポリ公が当たり一面にいやがって。がさごそ動いてやがる。車のドアがぶっこぬかれて、俺たちは車から引き出されちまった」
裁判官はむっとした。「被告人!それが法廷で使う言葉かね?」
弁護士が起立して裁判官に言った。「口を閉じろ、このおたんこなす!若えのが事の次第を話しているんじゃないか」

途中も?が多く勝手に内容を作っています。最後の弁護人の発言も裁判官に向けてとなると?となってしまいました。検察に向けてだと荒っぽい物言いはうなづけますが、裁判官に向けてだとするとこの裁判は完全に敗訴というところでしょうか。

Posted by takahashi at 2007年02月06日 19:32

私の珍訳に対する大いなる激励のことばをいただきましてありがとうございます。嬉しがってすぐ木に登り始めそうなので、その前に冷静に訳の問題点を明確にしておきたいと思います。私の場合、いつもながらですが、偶然の結果、たまたま合っていたということがかなりの確立であるのがくやしいところです。タクシーにしても、最初は、被告等がタクシーを盗んで(баня свободная=運転席が空、と考えて)、乗り回した(рули – вертиと命令形になっていたため)ことにして訳していたのですが、提出前に変更したばかりですし、штанами шуршатも、штаныが気になり、パンツルックのお姉さんと考えましたし、ハウスコミュニケもネットで大分探しましたが見つからず、そのままにしましたし(この被告が立寄るのだから娯楽施設か映画館かクラブか?と)、学生会館だったのですね。モスクワに実際にあるのですか?問題山積です。さとうさんの訳を見せていただいて、自分の訳が誤訳のところがご指摘部分以外にもあります。ご指摘のところは、蝶番をはずす(はずれる)=снять с петель確かに確認しました。
Ни мы их за рога и в стойло на уколのНиをнеと訳してしまいました。よく考えれば、後ろが否定文になっていないので変ですね。この場合のНиはどのように理解したらいいのでしょうか。仮定法の願望のように思われますが、ただ手持ちの研究社の辞書では仮定法願望はありません。事実の確認の意はありますが。
штифтыは時計だったのですね。どうして造格になっているのですか?
とにかくわからないことだらけでした。
└( ̄~ ̄)┘ おてあげ~ 精進あるのみ!

話はまったく変わりますが…
「ハケンの品格」という言葉はもしかしたら「国家の品格」のパクリですか?さっきもYahooに入ったら、「大人の品格…」というのがあって、今「…の品格」がブームなのかなとちょっとおかしくなりました。
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まずお詫びを。Ни мыではなくНу мыです。зыркать своими глазами自分の目で見るという表現があり、これの類推のようです。時計で時間を見るということではないかと推測します。隠語は語の訳のついても標準語のように確立した語義や語法というのは完全にはないという風に理解したほうがよいと思います。使っている人たちもあまりそういう方面に神経を使うようには見えませんし。品格についてはその通りだと思います。

Posted by メイ at 2007年02月06日 22:45

私のあてずっぽうは相変わらずカスリもしないものがたくさんありました。メイさん、さとうさんの訳を読んで自分のものを読むと大笑いできます。精進あるのみですね。

Posted by takahashi at 2007年02月07日 15:40

ありがとうございました。штифтами зыркаем はглазами зыркаемの変形的なものだったんですか!それにしても今回のお話はまさに庶民文化ですね。あとでさとうさんのサイトの辞書(блатной жаргон )のところを見せていただいて、少し買い足したいと思います。「帯研の品格」を上げるためにも!!
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このレベルの隠語になると、現代ロシア話し言葉辞典は役に立ちません。小話を見た瞬間使えないなと思い、他の口語隠語辞典3種を使った次第です。しかしこの小話は隠語を無理に小話仕立てにしている感じもありますからあまり気にする必要もありません。いずれ本当のвор в законеが隠語で書いた手紙というのも掲載予定ですので、それにお持ちの隠語辞典が対処できるかどうかということだと思います。岩波や研究社、コンサイスも今回の小話にはまったく歯が立たないでしょう。

Posted by メイ at 2007年02月07日 20:23
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