2007年01月05日

●帯研(第35回)

通訳や翻訳のプロを目指すなら、ロシア語を読んだり聞いたりして、いわゆる頭の中でロシア語で意味が分かる(イメージできる)というだけでは不十分である。このロシア語で分かる、分かったような気になるというレベルに到達するのはそれほど難しいことではない。通訳や翻訳者はロシア語を日本語に、日本語をロシア語にするわけだから、取りあえずはロシア語を聞いたり読んだりしたら、瞬時に母語の日本語に訳せるよう練習すべきである。この練習を日頃しておくのが通訳の役に立つ。今回は簡単な小話を。
- Гражданин, вы не видели поблизости милиционера?
- Нет.
- Тогда снимайте шубу!
設問1)ロシア語の用法におかしいところはあるか?あれば訂正し、その理由も説明して和訳せよ。

Posted by SATOH at 2007年01月05日 13:30
コメント

「ちょっとすみません、近くで警察官を見ませんでしたか」
「いいえ見ませんでしたよ」
「なら、毛皮のオーバーを脱いでいけ!」

通行人がграбительに早変わりする設定ととりました。шубаは、日本人は普通外套という言葉をあまり使わないと思いますので毛皮のオーバーとしました。

次に、強盗ならснимайте шубуと丁寧語を使うのはおかしいと思います。ここでснимайとするのかснимиとするのかがまた問題です。強制・要請(命令)である完了体のほうがいいようにも思えますし、この時点で強盗に早変わりしたのを被害者は知っているわけですから、「オーバーを脱ぐと言う行為に取りかかれ!」という着手のснимайでもいいのかもとも思えていまいちはっきりしません。最後はやっぱり体の問題で行き詰りました。
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オチも訳もきれいで、問題点もよく分かっているようです。ただ別に追いはぎが乱暴な言葉を使わなければならないということはないでしょう。丁寧に言った方が迫力はそれなりに出ます。私の訳と解説は、
「近くで警官を見ませんでしたか?」
「いえ」
「じゃあ、毛皮のオーバーを脱いでください」
解説)不完了体命令形「着手、促し」という用法。ビジネスの面談などで部屋が暑いときには、Снимите пиджак.(背広を脱いでください)という。これはビジネスでは背広を着ているのが普通だから、新しい情報を付け加えるのは完了体を使うのだというふうに理解している。この小話のテキストで完了体命令形を絶対使えないとは言えないが、一般的には不完了体の命令であろう。ただ納得のいかぬ方がロシアに行って、夜中に人通りの少ないところで、追いはぎに聞いてみるというわけにはなかなかゆかぬであろう。まあ有無を言わさず殴られて身ぐるみはがれるか、Снимите!と言われて、ニターっと喜んで(さとうはやはり間違ってた)、「何がおかしい」ということで、ぶすっと刺される。Снимайте!と言われて、「Нет(用法がおかしいという意味で)」と言って、ぶすっと刺されるかのどちらかであろう。こういう検証のしにくい用法には私も強気である。在日のロシア人が完了体の命令形だと言おうと、その人がプロの追いはぎという可能性はないだろうから、そういう素人の言うことはどうでしょうと言えるかも。

Posted by メイ at 2007年01月06日 20:48

二番手になりますが、一応私の解答も投稿します。
まずは和訳です。

-すみませんが、このあたりで警官の姿を見かけたことはないですか?
-ないですよ。
-だったらその毛皮の外套を脱いでもらいましょうか。

やけに丁寧な強盗さんの物の言い方がおもしろいですね。
снимайте шубу は暖かい部屋に入ってきたときのように脱ぐのが当たり前の状況下で使う表現と理解しています。この話では追いはぎ強盗の発言でしょうから、目の前の特定の人に向かってとっとと脱ぎなさいという有無を言わさぬ気持ちを表すものとして снимите шубуとした方がよかったかと思います。ただ、発話者の意識のあり方もポイントになるのではと思いました。追いはぎの自分にとっては相手に脱いでもらうのが当たり前だと認識があれば不完了体を使う場合も考えられそうですが、どうなのでしょうか?
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体の用法を理解されているようですが、肝心なところが違うようです。追いはぎにとっては、「脱いでもらう」というのが職業上?自然です。ですから、通常は不完了体の命令形を使うのが自然です。しかし相手がもたもたして、脱ぐのが遅ければ、完了体の命令形が出てくるでしょう。体の用法では、状況(命令形、不定詞、過去、未来、現在)によって、通常使われる体が決まってきます。例えば、要請では Скажите, как пройти на вокзал.と言いますが、相手の声が聞き取りにくければ、Говорите громче.という風になります。つまり違う体で別のニュアンス(情報)を加えることになるわけです。「お座りなさい」というのは、不完了体命令形で、Садитесь (Присаживайтесь).ですが、この後、Сядьте ближе к столу.と新しいニュアンスを完了体で使えます。完了体だから、有無を言わさぬ言い方だとかというのは、20世紀前半のロシアの文法学者の考え方で古いといわざるを得ません。完了体が完了を示すというのはпо-という接頭辞をもつ動詞などでは、正しいですが、そういう考え方を体の用法の根本だと考えていると、随分違う用法に戸惑うことになるはずです。完了体は「はっきりしたもの」を示し、不完了体はそうではないもの(あいまいなもの)を示す、2項対立ということでは、完了体が主であるということです。何度もいうように不完了体を使うべきところで、完了体を使えば、普通と違うわけですから、無礼というニュアンスが出る場合もあり、逆もそうです。

Posted by takahashi at 2007年01月07日 11:53

どうもありがとうございました。
体の用法の違いは一筋縄ではいかないですね。体を変えて情報を付加するというのも面白いです。


Posted by takahashi at 2007年01月07日 13:48

着手の用法が正しかったのですね。これはやはり現地にいないとなかなかわからない部分だと思いますので助かります。検索したところではほとんどすべて不完了体(このまま)で使われていましたので、不完了体が正しいのだろうとは思っていましたが、どうして丁寧語を使うのか不思議でした。そういえば日本語でも「~してもらいましょうか」「~していただきましょうか」という脅し文句は使えますし、逆に丁寧語を使うことで迫力が増しますね。マフィア映画を見ているような感じがします。万国共通性が確認できておもしろかったです。
これでもう十分理解できたつもりですのでпрактикаはできれば遠慮したいものです。

Posted by メイ at 2007年01月07日 23:03
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