2006年12月12日

●帯研(第24回)

ロシアのブログのロシア語には注意する必要がある。玉石混交のため12歳ぐらいの子供もブログを開設しているし、ロシア語自体が非常にくずれているのもあるため(標準語から離れているため)、ロシア語の学習の参考にはならないものがある。その点、本は一応プロの読者である編集者がチェックしているので、誤字脱字はあってもロシア語のテニヲハは問題ないといえる。よくロシア人がこういったとか、錦の御旗のように振り回す人がいるが、言っているロシア人による。私も30年以上ロシア人とは付き合いがあるので、ロシア人がというだけで別になんとも思わない。よほどロシア語学の大家が言うなら別だが、Принимаю к сведению.(伺っておきましょう)程度である。今回はそれほど難しくないものを出題する。
Смотрите в лучших кинотеатрах страны!!!! Новейший фильм ужасов: «Родион Раскольников в доме для престарелых»!!!
設問1)和訳せよ。オチを説明せよ。
設問2)Смотритеを完了体の命令形に代えることができるか?

Posted by SATOH at 2006年12月12日 13:02
コメント

正確なロシア語を身につけるにはまず書物からいうことですね。読む力をしっかり養成したいと思います。
今回は素直に読んだつもりです。

設問1)
<和訳>
国内最高の映画館でごらんになってください。戦慄の新作映画「老人ホームのロージ(ン)オン・ラスコーニコフ」を!
<オチの説明>
ужасに「ホラー映画」と「内容がひどい映画」の二つの意味がかけてあるのがオチだと思いました。永遠の青年「ラスコーリニコフ」の老後などだれも見たくないというところでしょうか。

設問2)
できると思います。
不完了体で表すほうが映画紹介としては自然な表現ですよね。何回か見る可能性もあることがほのめかされるのではないかと思います。一方、完了体にすると「一度はちゃんと見てよ」とか「一回だけ見ればいい」というニュアンスが出てくるのではと思います。さらには「よそ見してないでしっかり見ろ」という意味合いもあるような気がします。でも、こういう意味になるとここでは使えないことになりますが。(この体の理解に関してはまだまだ明確になっていません。)
-----------------------------------------------
小話のオチの解釈に100%これだというのはないのかも知れません。オチが「老後」なのかは即断できません。オチをよく理解している割には、それが和訳に反映されていないようです。ロージ(ン)オンとせずに、英語風に ロージ(ン)オフとしてもよかったかもしれません。一応私の訳を、
本邦優良映画館でご観覧ください。最新ホラー映画「老人ホームのロジオン・ラスコーリニコフ」を。
解説)ドストエーフスキーの「罪と罰」の主人公。「罪と罰」では一人の老婆とその妹を殺害しただけだったが、それが老人ホームとなると大虐殺!!!
設問2は出来ないと思います。これはPRの体裁を取っています。つまり不完了体の招待の用法です。完了体であれば、「是非見に来てください」ということであり、不完了体なら、「よければ見に来てください」というふうに、相手に対して「どちらでも、時間があれば、とかご関心があれば」ということになります。Придите ко мне, у меня дело есть.や Приходите к нам, у нас сегодня будет вечеринка.という文が分かりやすいと思います。

Posted by takahashi at 2006年12月13日 19:04

そうでした。ラスコーリニコフは「一人二人殺しても単なる犯罪者だが多数の人間を殺したら英雄」という理論をもっていたのですよね。納得しました。
完了体と不完了体ですが、強く見てほしいと映画の配給元が望んでいる場合に完了体という表現を敢えて使うことはないのでしょうか。仮に日本語で「必見!」などというコピーが使用されている場合、それをロシア語に直す際も不完了体で処理したほうがいいのでしょうか。
--------------------------------
日本語で必見といっても、それは書いている人が必見だと思っているだけで、それを強制的に言っているわけではないでしょう。自分は必見だと思うので、見たらどうでしょうということで、見なくてもいいわけです。しかし会社の会議で、午後3時に会議室に来なさいと言われたら、いかなければならない。そういうのとは違うと思います。

Posted by takahashi at 2006年12月14日 15:01

完了体と不完了体のところでまだもやもやしています。
発話者の気持ちは「必見!」でも見る側の状況を斟酌して不完了体ということなのですが、これは理解しづらいところがあります。なぜかといいますと、「見るか見ないかはお任せしますが、よければご覧ください」という気持ちで映画を薦められた場合、その受け手は映画を強く見たいと思うのだろうか、という疑問があるためです。自分の気持ちをそのままダイレクトに出すほうが相手にも強く伝わると思いますし、むしろそのほうが見たいという気持ちになるのではと感じます。それをオブラートに包んでしまうというのは、私の個人的な感覚なのでしょうか、抵抗感があります。ロシア人は自分の状況を斟酌してくれた表現の方を好む、そんなに奥ゆかしいというかヤワな民族だとも思えないのですが(ロシア人に怒られるかもしれませんが)。
たとえば、映画欄でいくつもの映画を紹介する場合はその中のどれか好きなものを選んでみてください、という文脈であれば不完了体の説明は理解できるのですが、特定の映画を強くPRする場合にも相手の状況まで考えるのでしょうか。私の感覚は英語から来ているのかもしれません。英語で映画を見てくれという場合に助動詞を使うとすればYou should より強い、You mustを使います。薦めるのですから「見る、見ない」は相手任せのshouldよりも断定的な主観の入るmustを使うほうが失礼になりません。この感覚というのはвы→тыという二段構えのロシア語にはないということなのでしょうか。受け手との関係を発話者がどう考えるかによって選択する表現の幅も丁寧なものからインパクトの強いものまでいろいろあるとは思いますが、ロシア語ではそれが規定される状況が多いのでしょうか(一般化してしまいましたが)。
----------------------------------
完了体と不完了体について本質的なことを言えば、完了体は明確さを不完了体はそうでない、つまり曖昧さを示します。それが使われる状況によって、丁寧だったり、逆に無関心と取られたりするわけです。これが一般的な話で、私の経験からいうと、完了体と不完了体の用法についてはいくつかの動詞群によっても、命令法、不定法、未来形、過去形、現在によっても違うので個々に覚える必要があると思います。さて命令形の「招待」という用法で不完了体を使うのが納得がいかない様子ですが、映画やパーティをいかに「絶対に来てください」という意味で完了体を使うことは出来ないか言われれば、できるでしょうが、ニュアンスが、それこそ是非きてくださいとなって、ロシア語では変わった感じがするというだけです。だからいいとか悪いとかということではなく現実を言っているだけです。PRなどではよほどうまい文脈でないと使えないだろうということです。まず普通のロシア人がどう感じるかのニュアンスを理解することがロシア語を学ぶ上での基本だと思います。日本語(英語)の感覚をロシア語の文法に当てはめることは危険だと思います。論理でだけで文法は成り立っているわけでなく、いわゆる高橋さんのいう「必見」ということも、不完了体命令形の範疇で、完了体命令形の「会議だから来なさい」というニュアンスとは違います。つまり命令を受ける側に選択の余地があるなら、これは言葉の強さに関わらず不完了体の用法の「招待」であり、なければ完了体の「要請」というふうに理解してはどうでしょう。ロシア語に新たな用法を我々外国人が作るわけには行かないのです。ただ高橋さんのいう「必見」という意味なら完了体の命令を使うべきだというなら、それを語学の専門家のロシア人に確認する必要があります。必見というだけなら、Вы должны посмотреть этот кино.と言えば済む事ではないでしょうか。この場合смотретьは使えません。なぜなら「この映画」というのはテレビ(具体的な番組でなく一般的に)、2時間とか時間が決まっているものだからです。

Posted by takahashi at 2006年12月15日 12:26

どうもありがとうございました。
発話者ではなく、命令を受ける側の選択の余地を意識するということですね。比較しながらやるほうが定着度が高いような気がしてしまい、いきおい、日本語や英語の感覚と比べてしまいました。未熟者のあつかましい質問にお答えいただいて恐縮です。ロシア語の感覚を身につけるには相当の覚悟がいりますね。心してかかりたいと思います。
-----------------------------------------
私の説明はいろいろな参考書に書いてあったものを、現場で確認してなるほどニュアンスがそうなんだろうと思ったものを、紹介しているのですが、ロシア語の表現(この場合は不完了体の命令形)があって、それをロシア人の専門家が、「招待」であろうと解釈したもので、逆ではありません。こういう説明がどうかということにこだわれば、そういう人は語学の研究者であり、私はあくまでも使う人です。ですから説明は語彙を暗記するのに役立てばよいが、説明が不可解でもそれは例外として、そういう用法を暗記すればよいという立場です(できるだけ理詰めの説明を求めるようには努力しますが)。ロシア語文法そのものよりも、ロシア語を使って何かしたい(読書を通じての大衆文化の理解によるロシア語そのものの理解したい)ということです。それと「テレビを見る」はсмотреть телевизорで完了体を使いません。これはテレビを見るのは時間が不定ということと関係あるというのが学者の説明です。映画はどんな映画でも時間に限りがあるので、完了体を使うというわけです。なるほどという気持ちもありますが、説明が理詰め過ぎるような気がしますが、使う立場では「いや違う」とは言えません。承るだけです。文法の説明に疑問を持つことは結構なことです。そういう疑問を持たない人はうまくなりません。ただなかなか満足のゆく答えは得られないのも現実です。誤解がないようにいうと、あの小話の文脈では完了体の命令形は使えないとは思いますが、高橋さんが友達に「あの映画は面白い(愉快だ)から見なさい」というのは、Посмотри(те) этот фильм, ведь он очень забавен.というのは完了体命令形の「要請」という用法ですから、使えます。

Posted by takahashi at 2006年12月15日 13:50

再三にわたって詳しく説明していただきありがとうございました。
表現が使われてる状況をイメージ(自分なりにですが)しながら定着が図れそうです。

Posted by takahashi at 2006年12月16日 10:57
コメントしてください