はっさく1号の・・・
あんなことこんなことロシア 第8回

ロシアのこども

 こどもはどこの国でもかわいい。どの子も愛されて、無邪気に育てばいいと思う。
現実を見ればそれは理想論になってしまうけれど、何はともあれこどもの笑顔が素敵な国はいいなぁと思う。

 寒い季節になると、ふかふかに着ぶくれたロシアのこどもたちを思い出す。
しっかり着込まされて、ずんぐりしている様子がたまらなく可愛くて、ついつい眼で追ってしまう。冬のロシアでのメインの楽しみだといってしまってもいい。

いつかのNHKテキストのエッセイコーナーで、冬のロシアのこどもたちを「まるで生きたクマの ぬいぐるみの様で思わず抱きしめたくなる」と書いていた方がいた。
一瞬、子どもの百貨店から、クマのぬいぐるみが、降りしきる雪につられて一斉に街に出てきたのではと錯覚するのだと。
読んで思わず笑ってしまった。子グマ!うん、確かに子グマっぽい。

ほんとうに、まるでみんな一斉にどこかの国からくり出してしたんじゃないかと思うくらい、み〜んな同じ様にムクムク着込まされて、ぼてぼてと歩きにくそうに歩いてる。パパとママの間で二人と手を繋いで歩いていても、パパとママは容赦なく自分たちのペースで歩くので大体の子は半分引き摺られる様にして、よたよたと歩いている。ずるずる。ぽてぽて。歩く姿はいっしょうけんめい。

思わず笑いそうになるけれど、はたから見ているとその様子が可愛くてたまらない。
子グマというよりも、わたしはずっと「ミニ宇宙飛行士みたい」と思って見ていたので、まるでどこかこどもの世界からみんなで宇宙船に乗ってやって来た様にも思えてしまって、おかしな想像をしていたものだった。

 ロシアではこどもにすごくおしゃれをさせるのか、冬の初めに動物園に行った時にも
周りはカラフルな上下のコンビネーションを着込んだこどもだらけだった。

自分がこどもの世界に入り込んでしまったかの様な錯覚に陥る。
動物を見ながらのこどもの発言がまた面白くて、
「見て!あの鹿動かないけど生きてるの?もっとこっちに来ないかなぁ・・。」とか、
「ほら見てごらん、大きな熊だよ。」(父)
「でも僕怖いよぉ〜!」(子ども)とか、
中には熱帯魚を見て「パパ!見てあの魚、なんて分厚いんだろうね!」
と言うこどもに、
「ん?ああ違う。あれは『分厚い』じゃなくてただ『大きい』って言うんだぞ。」
と説明してあげているお父さんもいた。
その子が指差した魚を見ると確かにすごく大きくて、でもすごく薄く、
ひらひらと泳いでいる。分厚くはない。
「そっか!ロシア人のこどもも小さいうちはまだ正しいロシア語を知らないのね!」
と妙に感動した一瞬だった。

 そういえばローマ君にもパパとママはしっかり着せていたなぁ、と思い出す。
コートを着せて、帽子をかぶらせて、てぶくろをつけて。
「まったく子供の服は高くてねぇ。コートなんてこんなに小さいのに50ドルもしたよ。」
と言うパパさん自身は作業服の様な服装で、「寒くないのかな。」と心配になってしまう。
「ほらほら君もちゃんと前ボタン留めて。帽子もちゃんと被るんだぞ。」と
私の事まで心配してくれる。

 ローマ君一家と知り合ってからロシアの家庭を身近に知っていったけれど、一般的に家族一人一人の距離が日本の家庭よりも近くて、親密な親子関係を築いてる家が多い様だ。
もう大人になった友人でも、実家の母親にしょっちゅう電話をし、その度に最後には必ず
「じゃあね、ママ愛してるわ!いつも思ってるからね。愛してる!(チュッっとキス。)」
と言って電話を切る。自分では考えられない事なので、「すごいなぁ」と思ってしまう。

 こどものしつけがかなり重要視されているのか、育児に関する書籍は物凄く多い。
みんな道端でも平気でこどもを叱り付けるし、よその子であろうと容赦しない。
「こっちへ来なさい!」「ダァ〜。」
「こら!だめでしょ!」「でもぅ・・」
「はいちゃんと食べて!」「もういいよ〜」・・・なんて話してる場面にはよく出会う。
特に女性がしっかりしているというか、お母さんがしっかりしつけてお父さんはちょっと甘め、って家庭が多いのかな?という印象を受けた。

 子育てに関してはみんな興味津々で、ある日授業で先生に
「ねえねえ、日本の家庭ではご両親は子供が6歳になるまでは(学校に上がるまでは)何をしても絶対叱らないって本当?」と訊かれて、
「え?そんな事初めて聞きましたよ。」と言うと驚いていた。
「でもロシアではみんなそう思ってるのよ。日本では、小さいうちは叱らない様にするんだって。だからみんな穏やかに礼儀正しく育つのかしら。って私は思ってたわ。」
「へぇ〜面白いですね!でも日本の家庭でもこどもが悪い事をしたら勿論怒りますよ。」と私。でも確かに、ロシアに比べたら遥かにこどもが叱られてる場面を見ない。

この間とある大型スーパーで販売アルバイトをした時なんて、こども二人で売り場のカートを  好き放題に乗り回してその周辺は大変な事になってるっていうのに、お母さんは傍で見ていて 知らん顔。むしろ一緒になって笑っていた。
「なんで注意しないの?周りの人も迷惑してるのに絶対おかしい!」と思って
「ホラホラだめでしょ。ちゃんと戻して。」と私が注意しても、こどもたちは聞く耳持たず。
「何なの?」と思っていると、
「まあ母親があんなですから、こどもも誰が注意しても聞かないでしょうね。」と
その場にいたバイト仲間が言った。
「う〜ん・・。過保護すぎてもいけないけど、悪い事しても何も言わないなんて間違ってる!」と思った一件だった。

 こんな時ロシアだったらきっと、お母さんが注意しなければ近くに居合わせた他の大人たちが絶対黙っちゃいないはず。これもお国柄なのだろうか?

 まあ、そんなこんなで日本もロシアも今は冬真っ盛り。
ロシアの冬の楽しみのひとつは、その雪景色の美しさもさる事ながら、何といっても
街を行くあのミニ宇宙飛行士の子グマたちを見ること!
そう考えると、次にまたロシアを訪れる時が待ち遠しくてたまらない。

近所の公園。
寒さをものともせず
走り回る「子ぐまちゃん」たちと
世間話に熱中する奥様方。
ロシアの冬の日常風景。(gonzaひよこ)
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