2004/11/12 19:00S/O

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はっさく1号の・・・
あんなことこんなことロシア 第10回


リュブリャ―ナで出会ったマリア

 初めて出会った人と思わぬ所でロシア話に花が咲くことが、
ヨーロッパ、特に東欧を旅しているとけっこうある。

その中でもとびっきり愉快そうにロシアでの思い出話を語ってくれたのが、
スロヴェニアの首都リュブリャ―ナで会った、メキシコ人のマリアだった。

 今年の2月再びモスクワを訪れる機会を得た私は、
そこから足を伸ばして留学時代の友達のいるセルビア・モンテネグロにも
行くことにし、その上ついでに大学の友達と卒業旅行もしちゃおう
という計画を立てた。

ハンガリー辺りで彼女らとは落ち合う事にして、
卒論を書き上げると一人慌しくモスクワへと飛び立った。

 着いたらまずアエロのオフィスに行き、ハンガリーへの往復チケットを購入。
数日モスクワで過ごした後、ブダペストへ。
もちろん、中欧を廻った後はモスクワでたっぷり2週間程過ごす予定で☆

 さてさて。
意外とすんなりブダペストのメトロ駅構内で友人二人と落ち合えてからは、
ブダペスト、クロアチアのザグレブ、ドブロブニク、そしてスロベニアの
リュブリャ―ナと、順調に(?)廻って。

 移動は列車か夜行バス、泊まりはユース、もしくは車内泊もアリ、
食事はスーパーや町の市場で買い物して簡単に手作りで、が中心の
まさに貧乏旅行だったけど、これで本人たちは大満足。
本当、貧乏旅行は、一度やったら止められない!

 ・・・と、前置きが大分長くなったのでこの位にして。

 マリアと会ったのは、そんな友人たちとの旅を一通り終えて
解散して、また一人になった夜。

友人らはローマから出る飛行機で日本に帰るために、イタリアへ向かった。
私は翌日早朝の列車でセルビア・モンテネグロの友人の元へ向かうため、
もう一泊リュブリャ―ナで過ごすことに。

 彼女らの乗る列車を見送りユースへ戻った私は
3人で泊まってた小さめの部屋から大部屋に移動したのだが
これがまた本当に大部屋で、広い屋根裏部屋に低いベッドが敷き詰めてあり、
そこに男女関係無くいろんな国の人たちが寝泊りしている。
主にヨーロッパ系のバックパッカーが中心。

「うっ。なんか急にちょっと心細くなっちゃったな・・。
 ま、明日も早いし早めに寝るか。」

と寝床の準備をしてると、
ゴソゴソっと何かが動く音がした。
どうやら先に眠っていた人がいたらしい。

「ごめんなさい。起こしちゃいましね。」

「ううん・・・いいのよ。」

と出てきたのが彼女だった。

「ねえ、どこかいい店知らない?私今日ここに来たんだけど、
雨降ってて嫌んなっちゃって寝てたのよ。あはは!!」

と、内容とは裏腹に物凄く可笑しそうに笑いながら訊いて来た。

「私も昨日来たばっかなんでよく知らないけど、
 1階にバーみたいのがありますよね。
 外は雨だし行くならそこの方がいいんじゃないかな。」

「ああ、あそこね、結構いいわよ。行ってみる?」

・・・と、ユース内にあるバーへなぜか珈琲を飲みに行くことに。

 今日来たばかりという彼女だけど、何故か既にバーの人々とも
打ち解け済みで、冗談を飛ばしあいながら豪快に笑う。
本当に明るく顔いっぱいに笑うので、
「なんか面白い人・・!」
と、私もすぐに打ち解けたのだった(^^)

「あっ・・・しまったお金持ってないんだった。」

そう、翌日早朝にこの国を発つ私は、余計な現地通貨を残さない様に
両替は最小限に、そしてほぼきっちり使い切ってから去るために、
その時バーでカプチーノを頼む分の金額すら残していなかったのだ。
(何せビンボー旅行ですから・・・^^;;)

「ん?どしたの?・・あっそうか!明日発つって言ってたもんね。」

と一言いうと、彼女は
「奢るわ☆」
と私の分まで払ってくれたのだった。

 話を聞くと彼女はメキシコ出身で年は30前半。
もう10ヶ月も一人で世界を旅している途中だという。

「10ヶ月も?!すごいですね!」

「うふふ。ずっとメキシコで働いてたんだけどね、一旦辞めて
旅行を始めたのよ。コンピュータ関係の仕事だったんだけど。」

「いいな〜。私は日本に帰ったら大学の卒業式があって
その後すぐ仕事が始まるから、こんな風にゆっくり旅行できるのは
これで最後だと思ってるの。」
というと、

「大丈夫。あなたもしばらく働けばお金が貯まって私みたいに
旅行できるわよ。辞めても仕事はまた探せばいいんだからね。」

と彼女。
見るととっても優しい目をしている。

「見てみて。これ私のパスポートなんだけど・・・」

とおもむろに開けて見せてきた彼女のパスポートのとあるページを見ると、
どこかの国の入国スタンプの上に大きくペンで×印が付いている。

「何これ!どうしたんですか?」

「あはは!これね〜、バルト三国を旅した時に付けられたのよ。
 あの三国には条約があって、どこか一つの国のビザを取っていれば
 他の国にもそのビザで入れるって聞いてたから、
 リトアニアの後そのままラトビアへ行ったの。
 そしたら空港でいきなりダメ!って言われて、スタンプにバッテンを
 書かれて入国できなかったのよー。
 どうやら出身国によるらしくて、メキシコとはそういう取り交わしはないから
 私には許されなかったってわけ。」

随分な出来事なのに、明るく笑い飛ばしながら話してくれる彼女。

(メキシコの人ってみんなこんなに明るいんかな?と思いながら)
「あらら・・・大変でしたね。で、その後どこに?」

「その後はね、ロシア。」

「えっロシア!?ロシアにも行ってたんですか!?」

思わず身を乗り出した。

だって普通のバックパッカーはあんまりロシアには寄らないし、
ビザを取るにも一苦労なのに、正直よく行ったなーと、思ってしまって。

そして、思わぬところでロシア話に花が咲き出し・・・。

「ロシアは好きですか?」

「そうねー。最初は大変な事ばっかりで、ロシア人も皆冷たく見えたわ。
 ビザの登録をしに役所に行ったら『明日来い』って言われて、
 次の日行ったら誰もいなくて、7時間も待たされたのよ。」

「うっ、分かる!そういうのしょっちゅうなんですよね!」

「そう。しかも私はロシア語も解らなかったしね。
 でもね、その時英語の解るロシア人の女性が助けてくれたのよ。
 結局彼女と仲良くなって、彼女の家に滞在させて貰えたの。」

「へぇ〜それは本当にいい人に出会えましたね。」

「ええ。ロシア人は、一見冷たく見えてもよく知れば凄く温かい
 人たちなんだって思ったわ。」

「そう。仲良くなると物凄く親身になって家族みたいに接してくれる
 ところが素敵ですよね。」

 更に彼女の話は続く。

「これいくらですか?って言い方だけロシア語で覚えたのよ。
何だっけ・・、スコ、スコーリカ・・・」

「スコーリカ エータ ストーイット?」

「そうそれそれ!それを覚えて店の人に聞くんだけど、返ってくる
 返事が何を言ってるのかまるで解んないわけ!あはははは!!」

「あははは!!向こうは外国人だろうと遠慮なしに話してきますしね。」

あまりに可笑しそうに彼女が話すので、
こっちも可笑しくて仕方なくなってしまう。
ここまで楽しそうに豪快に笑う人ってなかなかいない。

 本当に、苦労も全てこうして笑い飛ばす彼女だったら
どこに行っても何があっても乗り越えて旅を続けていけるだろう。
そう思ってふと、

「ねえ、モスクワとメキシコ、どっちがより危険だと感じましたか?」

と訊いてみた。
すると彼女は少し真剣な表情になって、

「そうね・・、たぶんメキシコだわ。」
と言った。

「そうなんですか・・・。」

と言うと、
「逆に聞くけど、モスクワの強盗は人を撃って殺す?」
と聞かれ、

「そんな、必ず殺すってことはないと思うけど・・・。」
と答えると

「じゃあやっぱりメキシコの方が危ないわね。」
と彼女。

「そっか。でもモスクワでも強盗が人を殺すケースは結構ある
みたいだしな・・・」
と言うと、

「なんだ!じゃあ一緒だわ。あはは!!」
とまた高らかに笑った。

 こんな風に、一杯のカプチーノで取りとめもなくおしゃべりして、
最後に「メキシコに来たくなったらいつでも連絡して。」
と、連絡先を書いてくれた。

「まだまだ旅を続けるんですか?」

「そうね。ロシアにもまた行きたいしね。
 でもなんか、友達の話だと招待状でビザを取るには
 9ヶ月もかかるらしいから、無理だと思う!あはは!!」

(以下略)

・・・とまあ最後までこんな感じで笑いっぱなしだったマリア。

 数時間いっしょにいただけなのに、私のなかに強い印象を残した
底抜けに明るいこのメキシコ人女性は、今も世界のどこかを旅しているだろう。

こんな風に、出会う人出会う人に太陽みたいな印象を残しながら。
 

 

遠くに行きたい(東欧編)。スロベニアの首都・リュブリャーナ
「ドラゴン・ブリッジ」。ドラゴンはリュブリャーナのシンボルだそうです。
(Photo: B. Bajzelj)
中世の香りを残した美しい街並み
(Photo: D. Mladenovic)
旧市街と新市街を結ぶ「三本橋」
青い空と白い橋や建物、朱色の教会の
アンサンブルが美しい〜。

(Photo: T. Reisner)

写真はスロベニア政府観光局のホームページからお借りしました。(gonza)

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